2014-01-01から1年間の記事一覧

母の短歌集

わが一度もつけしことなきイヤリング 友の福耳に輝きゆらぐ

母の短歌集

何にかく人の心の荒び行くか 児童虐待のニュース続くも

母の短歌集

フィリピンより送り返されし芥の山 日本国民として誠に恥ずかし

母の短歌集

吾と話せば心明るくなると言ふ 夫亡き友とマレットをする

母の短歌集

ポストの中に山姥ひとり棲み居ると 詠みし人の歌思ひつつ入れる

母の短歌集

松喰虫にやられし庭松聴診器 当てても生ける鼓動の音なし

母の短歌集

夫子等と住みし冬至の日のごとく 南瓜を食べて柚子湯に入る

母の短歌集

新アララギの表紙絵の慈姑わがまねて 和紙をちぎりて絵手紙に出す

母の短歌集

姿見も手鏡も磨き二千年を 迎へる大掃除漸く終はる

母の短歌集

冬空の雲は昨日に変はるなく 吾が古里の山の上に凝る

母の短歌集

育つ時も育てるときも考へても 見ざりし児童虐待法案虚し

母の短歌集

在りし日に椿の花の一輪を 夫彫りし俎板冬日に干しぬ

母の短歌集

玄関にとり込みし鉢のハイビスカス 葉裏に蟷螂動くともなし

母の短歌集

年金の頼めなき世を嘆きつつ 子等は老後に備へ居ると言ふ

母の短歌集

信州の御馳走と思ふ蜂の子飯 都会育ちの嫁は毛嫌ふ

母の短歌集

「仰臥漫録」死の半月前迄執筆せし 部屋の窓辺に庭眺め立つ

母の短歌集

丸太でなく切り口を詠めと導き給ひし 知至先生思ひ添削をする

母の短歌集

アメリカへ九千三百発放ちしとふ 吾等和紙貼り重ねし風船爆弾

母の短歌集

ほうれん草を蒔き終へ見上ぐる西空の 茜に染むる夏雲秋雲

母の短歌集

病み臥しし子規のこよなく愛しみし 庭に萩咲き柿の実色づく

母の短歌集

米十キロ千九百五円と記しある 四十一年度の家計簿ひもとく

母の短歌集

売れ残る宅地一面にはびこりし 昼顔の花夏の日のもと

母の短歌集

青草を背にのせ田の草とりて居し 亡き父想ひ畦に立ちをり

母の短歌集

丹精せし蜀黍の花粉風に舞ふ 下に深々と土寄せをする

母の短歌集

俄雨過ぎて真夏の日の差せば 一人静の青き実光れり

母の短歌集

迎え呉るる人なき家に鍵を開け 開け入るにも馴れてわが独り住む

母の短歌集

大降りにならぬ間に来よ亡き夫よ 早々と迎へ火心こめて焚く

母の短歌集

あね様とごぜ等に慕はれ亡き母の 持て成し居りし姿忘れず

母の短歌集

薪を割る父の傍らに皿持ちて 出てくるゴトウ虫を楽しみ待ちき

母の短歌集

ゴトウ虫を入れて焼きたる香ばしき おやきの味のいまだ忘れず