2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧
大平峠の人住まぬ家の廂朽ち 菖蒲の花の草叢に映ゆ
シャコバサボテンにつきし蟷螂の卵孵り 糸の如きが蠢きてをり
思ひ切り捨てて押入れの整理するを 娘は良くぞと褒めて呉れたり
細ごまと必要品をバックに詰め 入院用と札つけて置く
静まりし猿庫の泉に鹿縅し リズムをもちて響き渡りぬ
猿庫の苔むす岩間より湧く泉 冷えびえと喉に沁み渡りゆく
今宵咲く月下美人を玄関に 取り込み花の開く時待つ
亡き夫を偲ぶよすがの岩煙草 蹲踞に影落し咲き初む
僅かばかり日脚短くなりし夕べ 蛇苺目に立つ土手草を刈る
初どりの胡瓜に味噌つけ味はひつつ 一年の巡り早きを思ふ
三ケ根山にエンジンもプロペラも錆びつきて 静もる零戦に心痛みぬ
戦争はしてはならぬと口々に 三ケ根山の慰霊碑を巡る
恙無く今日も過ごさむ日課の一つ 薄めしバナナ酢楽しみて飲む
花水木の花盛りなるアップルロード 吹き来る風は甘き香運ぶ
奈良井宿の店先に木曽五平頬張れば 何故かゆったり心落ち着く
飯綱山に種蒔くぢいさんの雪形の 見え来て信濃も春を迎ふる
蟷螂の卵のつきしシャコバサボテン 葉先整へ窓辺に置きぬ
酸味帯びし漬菜を亡き母のなししごと 油で炒め味をともしむ
お巡りさんも襲撃恐しと駐在所に 防犯ブザー置く世となりぬ
訪れる度にチワワが喜びて 迎へ呉るるはセラピーか吾の
国技なるにモンゴル相撲になり来しを 寂しみて観る千秋楽を
何時の日か世話になるらむ紙襁褓 その日思へば侘しくなりぬ
老いの集ひに失禁パッドや紙襁褓 商ふ人は下の清潔を説く
十年間呑み続け来し血圧の薬 三千六百余粒思へば恐ろし
認知症の予防になると教へられ 左右に腰ふりグーパーをする
五円玉を色紙に綴ぢて吾が好む 「和」の文字書けど光失せ来ぬ
新年を迎へて願ひ二つ持つ 逆縁なきこと吾が息災のこと
寒中の雨に蹲踞の氷とけ ひからびし苔蘇り来ぬ
雨止みて朝日に息立ち白く煙る 畑に黒き野良猫の見ゆ
手首の力とみに弱りて大中小の 瓶の蓋開けの器具を購ふ
