2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

ギリシャから七千人が走り継ぎし 聖火今し長野に点火す

母の短歌集

新アララギ創刊号の頁繰り 選者異なる友等の歌をさがす

母の短歌集

六回目の年女迎へ十二年後も 呆けず健やかに生きたしと思ふ

母の短歌集

遠山郷より帰る車の前よぎる 狸の眼ライトに光る

母の短歌集

白糸のレースのごとき蜘蛛の巣よ 日にきらめきて霜の溶けゆく

母の短歌集

オリンピック六十日前を迎ふるも 県南の吾等実感淡し

母の短歌集

腐葉土を作ると積みし落葉の上 白き野良猫今日も居ねむる

母の短歌集

口々にアララギ終刊を嘆きつつ 富士見高原の歌碑を巡りぬ

母の短歌集

衣之渡川に遊べる鴨も親しくて 土屋先生住みし借家に向ふ

母の短歌集

在りし日に夫の植ゑたる紅万作 極まる紅葉の一葉供ふ

母の短歌集

よそ者と言はれし三十六年前 今はよそ者の戸数は五倍

母の短歌集

新アララギに初めて寄する十月の 歌稿をペン先改めて書く

母の短歌集

再びを来ることなけむ恐山に 亡き夫思ひケルンに石置く

母の短歌集

イタリアへ汝出張の朝なり コスモス供へ亡き夫に告ぐ

母の短歌集

子を背負ひセーター編みし遠き日を 思ひつつレースの袋編みをり

母の短歌集

納屋隅に真綿むき居し母の姿 偲びつつ残る真綿手にする

母の短歌集

外側のみ料理に使ひし百合の根の芯 植ゑしが赤き花盛りなり

母の短歌集

半年間咲きつづきたるシクラメン お礼肥して床下に置く

母の短歌集

片目なる視野の中なる医者の手の ゆきかふを見つつ手術受けをり

母の短歌集

「おぼろ月夜」口ずさみつつ暮れなづむ 畑に浮き立つ菜の花を摘む

母の短歌集

雨上り夕べの庭に盛り土を 崩しつつ独活の萌え来しを掘る

母の短歌集

出しゃばらず控へ目にしていざの時 力を出せと母は教へき

母の短歌集

日食の進むにつれて梅園の 白妙の花色あせて見ゆ

母の短歌集

試食品を車椅子の妻の口に運ぶ 優しき眼の老いを見てゐつ

母の短歌集

運動会の玉入れの玉縫ひし礼にと 児童等が肩を叩きくれたり

母の短歌集

五年励みアララギに載りし九十七首 宝物のごとく筆字に清書す

母の短歌集

夫亡き後励ましくれし夫の友 今年も一人癌やみて逝く

母の短歌集

たしかなる現実なれど「独居老人」の 言葉の響き吾は好まず

母の短歌集

貝殻のふれつつ開くかかそけき音 聞きつつ詮なき事思ひをり

母の短歌集

三日間降りつぐ雨に籠り居れば 山椒を喰ふ虫丸々と太りぬ