2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧
枕元に草花置きて画きしとふ 子規の水彩画なべてやさしも
天井から網をたらして痛みこらへ 縋りしとふ子規の病状の歌
岩煙草のうす紫に咲き盛る庭に 日課の深呼吸をする
庭松や椿の幹に聴診器当てて 生命の音異なるを聞く
手鏡が何もせぬのに音たてて 割れたる朝母は逝きたり
日傘さすは年寄りくさいと言ひ居し娘 白のレースの日傘さし来ぬ
藪柑子のかすかな花よ知らぬ間に 緑の小玉葉陰に結ぶ
老人会の吾等集ひて先生の 百歳を祝ふ宴を開く
十年後の己が姿を思ひつつ 施設の老い等と童謡を唄ふ
褐色の溶岩つづく鬼押出しの 岩間にやさし岩かがみの群れ
アサツキもニラも萌え来し菜園に 今年は多目に苦土石灰をまく
霧晴れてうす日に浮き立つケルンの上 吾も小さき石一つ置く
此の峠越えて三穂村に赴任せし 亡き夫思ひ娘等と越す
玄関にとり込みし鉢のパセリ摘み 友をもてなす皿に飾りぬ
夫の写真持ち来て伊豆と子の家に 過ごしし八日間忽ちに過ぐ
亡き父と歳の同じ百歳の先生に 短歌を学び励まされをり
高原のマツムシ草の群れ咲ける 清しき空気深々と吸ふ
健やかな老いを願ひてアシタバや モロヘイヤ育て日々に摘み食ふ
フランスの再度の核実験の振動が 長野の振動計に記されしとぞ
虫すだく庭に幾度も出て見しが 今宵の名月遂に見えざり
久々の雨にコンテルクラマゴケ 玉虫色に木漏れ日に照る
学力の劣るを心配せし帰国子女 希望高校に合格となる
茄子やトマトの連作さけるもままならず 少しずらしてマルチを敷きぬ
萌え出でしヒヤシンスの芽に土かけつつ 今年終りの庭に草とる
彫刻刀を口にくはへて彫りしとふ 版画の前に声のみて立つ
虫の鳴く畑に秋の日あまねきて 白菜にひそむ青虫をとる
老人会の回覧板に紙はりて 事故で逝きたる友の名を消す
赤きさつき一花咲ける木の下に 腐葉土作らむと柿葉積む
軒に吊すオリヅルランに蟷螂の 卵が夕べの日に照りてをり
孝行をしたくないのに親のゐる 時代と聞けば老い吾等苦笑す