2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

新しく土竜もたげし土踏めば 土の匂ひのしるく立ちくる

母の短歌集

指先にリズムをとれる指廻し 呆けの予防の日課となりぬ

母の短歌集

蟷螂の卵のつきしシャコバサボテン 窓辺に置きて花咲くを待つ

母の短歌集

悔い残さじと娘の看取りに只管に 過ぎゆく日々をゆとりなくをり

母の短歌集

神の峰になづさふ朝の白き雲 忘れたき過去しばし思ひぬ

母の短歌集

「親不孝で御免なさい」と看取る吾の 血圧高きを娘気遣う

母の短歌集

手術後の思ひ見ぬほど経過良き 娘に時かけ五分粥を煮る

母の短歌集

老化を早める活性酸素の強敵とふ イボスティを朝々にのむ

母の短歌集

在りし日に夫の植ゑたる岩煙草 苔むす蹲踞に色淡く咲く

母の短歌集

やはらかき風はローズマリーの香をふくみ 物干す吾の頬をなぜゆく

母の短歌集

新たなる「核」の不安を抱きつつ 五十八年目の原爆の日を迎ふ

母の短歌集

娘が病めば電話のベルにも怯えつつ 代れるものなら代りたく思ふ

母の短歌集

娘の手術見届けて来し今宵の空 火星の輝き不気味にも見ゆ

母の短歌集

惜しげなく友堀り呉れし白水引の 花咲き満ちて八月終はる

母の短歌集

専業の主婦にて終らむわが一生 不甲斐なきとも只管なりき

母の短歌集

長梅雨の明けし日差しに居間に置きし 備長炭を返しつつ干す

母の短歌集

中国茶の茶道具一式求めきし 汝は手慣れし様に入れくるる

母の短歌集

年々に白鼻心に喰はれし玉蜀黍 今年はことなく初どりをする

母の短歌集

惚教寺の枝垂れ桜の太き枝 里人添へしか竹の幾本

母の短歌集

亡き夫の原紙を切りし鉄筆に ちぎり絵の和紙心してちぎる

母の短歌集

移り住み四十年過ぐ長野原 神の峰より見下ろして立つ

母の短歌集

頼られて吾の成し得る小さき幸せ 思ひて娘の家に三日を過ごす

母の短歌集

小指ほどの花ある胡瓜数へつつ 手に巻きつけと紐に結びぬ

母の短歌集

物価スライド特別措置に年金の 減額となるも到し方なし

母の短歌集

蕗を煮る匂ひのこもる厨辺に 亡き母の味恋ひ味見してをり

母の短歌集

夕べの庭に花明りするカモミール 風呂に浮かべて香りを楽しむ

母の短歌集

カスピ海ヨーグルトを作り朝夕に アロエや林檎のせて楽しむ

母の短歌集

カスピ海ヨーグルト菌にて試みに 作りしヨーグルト意外にうまし

母の短歌集

広辞苑を使ふことなくこの薄き 電子辞書にて事足りて過ぐ

母の短歌集

咲き盛る白き小花のカモミール 茶に作らむと日陰干しする