2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

ほうれん草を蒔き終へ見上ぐる夕空に 鰯雲幾すじ茜に染まる

母の短歌集

九月中水を控へしシャコバサボテン 葉の先ごとに莟もち来ぬ

母の短歌集

株張らず早続きに下葉枯れし 里芋に深々と土寄せをする

母の短歌集

墓掃除終へて在りし日夫植ゑし 花の木の木陰に娘と茶をのむ

母の短歌集

雨止みし夕べの庭に色褪せし アヤメの花の雫滴るるを摘む

母の短歌集

夕風に細波たてる隣田に 今年は新築の家の灯揺らぐ

母の短歌集

錦木の散りしく小花払ひつつ 木下に植えし三葉を摘みぬ

母の短歌集

この坂を杖にすがりて細君の 墓参りされたる先生を思ふ

母の短歌集

摘みてたのし食ひてうましと子規言ひし 土筆摘み来て胡麻和へにする

母の短歌集

年金の現状届をいだし来て 今年も健やかに生きたしと思ふ

母の短歌集

三十円の値札つきしまま亡き夫の 買ひ置きし小刀錆びて出てきぬ

母の短歌集

己が為のみの栄養バランスを考へ 厨に立つも馴れきぬ

母の短歌集

クレーン車の大き手が吊るユニットを 重ねて忽ち家の形整ふ

母の短歌集

雨に濡るる野菊の花にまた寄りて 足りし心に去る左千夫記念館

母の短歌集

アスパラの藪を渡れる風いでて 輝きをりし露も消えたり

母の短歌集

秋となる光の中に松葉ボタン 小振りとなりし花の咲きつぐ

母の短歌集

六時間車に揺られ共に来し 文鳥を少女は優しく労る

母の短歌集

小林夫妻の歌碑のみ歌にありし日の 労り合へる面影浮ぶ

母の短歌集

コップの中に優しき音たて溶けてゆく 一万年前とふ南極の氷

母の短歌集

この朝開店セールの店内に 「ベルリンの壁」入荷の放送が響く

母の短歌集

アカシヤの蜜を運べる蜜蜂の 巣箱の廻り花の香漂ふ

母の短歌集

張り替えし障子に写る松の枝に 渡る小鳥の幾群れかある

母の短歌集

トンネルを抜けしまなかひに遠山郷の 盛る紅葉の山並の見ゆ

母の短歌集

隣り町へゆくがごとくに十日間の 海外出張を汝は告げ来ぬ

母の短歌集

餅を焼き大根を煮てごぜ達を もてなし居りし母の面影

母の短歌集

思ひゐし宇宙博に娘と来り 夢心地して「ミール」に乗り込む

母の短歌集

モトクロスのあげる砂埃は地蔵峠の 芽吹きの木々を白く覆ひぬ

母の短歌集

箪笥の傷一つ一つに思い出ありて 移り住みし村々思ひて磨く

母の短歌集

雲海に浮かぶ富士山見下ろしつつ 願ひ叶ひて沖縄へ向ふ

母の短歌集

子等夫婦の干支の木目込人形を 生きし証に心込め送る