2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

逝きし兄の一生思はせ照り陰る 日の下長き葬列続く

母の短歌集

終り迫る兄の枕辺に刻々と 乱れ目に立つ心電図ああ

母の短歌集

旧姓の我が名を幼き字で書きし 物差し一つ今に残れり

母の短歌集

在りし日に夫の植ゑたる紅まんさくの 紅葉を濡らし時雨過ぎ行く

母の短歌集

上蔟の近づきしならむ隣家より 蚕座の臭ひ風にのりくる

母の短歌集

還暦を迎へてますます太りたる 姉の身ごなし母に似て来ぬ

母の短歌集

掃除機の塵に交れるわが白髪 冬の夕日に光りて侘びし

母の短歌集

日本列島の中心点に立つと言ふ 生島足島神社に今日は詣でぬ

母の短歌集

命ある限り作歌を続けむと言はれし 先生のみ声耳に残れり

母の短歌集

歌の道は一にも二にも努力なりと 先生は常々励まし下されぬ

母の短歌集

先生の「続一日一詠集」が思ひ見ぬ 遺稿集となりてしまひぬ

母の短歌集

老眼鏡かけて吾ひく広辞林 子等が引きたる傍線したし

母の短歌集

ボランティアの給食サービス務め来て 疲れ覚ゆれど心足らへり

母の短歌集

子の新居見ずに逝きたる夫の写真 持ち来て一週間は忽ち過ぎぬ

母の短歌集

心配をかけぬが何よりの孝行と 母に言はれしを吾も娘に言ふ

母の短歌集

娘等を頼ることより頼られること 多き今を幸と思ひぬ

母の短歌集

わが生れし年に植ゑられし飯田駅の 古き柳も伐られてしまひぬ

母の短歌集

庭苔にも心を配り汲み取りの ホース引く人穏やかなりき

母の短歌集

阿智川のせせらぎ聴きつつ囲炉裏火に 釣り来しあまご汗垂りて焼く

母の短歌集

松のことは松に習へと教へしと言ふ 芭蕉を思ひ庭松を仰ぐ

母の短歌集

東京歌会にて中山さんが録音せし 土屋先生のみ声尊びて聞く

母の短歌集

友達の土産にせむと幼子が 持ち行く蝉籠に青草入れやる

母の短歌集

心字の池に向ふきざはしに散りしける 落葉踏む音心に沁みぬ

母の短歌集

親しき故に言ひし言葉を悔やみつつ 裸木となりし柿の木仰ぎぬ

母の短歌集

年と共に精神年齢を若くして 作歌に励まむと老先生の言ふ

母の短歌集

庭師等の帰りし庭に早々と みんみん蝉の鳴き出したり

母の短歌集

親しき故に言ひし言葉を悔やみつつ 裸木となりし柿の木仰ぎぬ

母の短歌集

母となりし頃に買ひし足踏みミシン ポータブルにして今も物縫ふ

雪割草

母の短歌集

こほろぎ一つ歩む厨に粕に酔ひつつ 汝に送らむ縞瓜漬けをり