2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

「歳だから」「まだ若いよ」を使ひ分くる 巧さを子に指摘されたり

母の短歌集

お節料理のわが分担は栗きんとん 黒豆田作百合根と決まる

母の短歌集

年の暮れの門松飾る飯田の町 買物客の人影もなし

母の短歌集

移り来て日々に眺むる赤石の嶺 今日はくきやかに紫紺に暮るる

母の短歌集

娘等との暮らしとなりし終の住処 除夜の鐘をば幾度聞き得るや

母の短歌集

水車小屋に搗きゐし母の姉さん被り 偲び精米機の搗き初めをする

母の短歌集

裾野迄形良く見ゆる風越山 見飽きず仰ぎ買ひ物にゆく

母の短歌集

嬉しさと寂しさ交々に移り来て 日々に嬉しき心増し来ぬ

母の短歌集

被災せし松の木に作りしコカリナの 優しき音色は心和ます

母の短歌集

「おばあちゃん御飯ですよ」だけでなく 炊事当番吾も受け持つ

母の短歌集

わが人生の終の住み家と移り来し 娘の家の暮しに足りぬ

母の短歌集

娘等の早寝早起きの生活に 日々に馴れ来てひと月過ぎぬ

母の短歌集

娘の許へ身を寄せし吾にかけ呉るる 言葉は立場によって異なる

母の短歌集

嫁をとり娘等を嫁がせ夫を送りき この家の五十年思ひは深し

母の短歌集

つけ呉れし緊急通報使ふなく 今日は返して娘の家へ移る

母の短歌集

何処よりか種の舞ひ来て育ちしか 夫の墓辺に秋桜赤し

母の短歌集

墓を清め娘の家に行くを夫に告ぐ 心安らかに夫もなりしか

母の短歌集

親を看取るは大役なるに易々と 受け入れ呉れし娘夫婦よ

母の短歌集

白鼻心に大方やられ獣の臭 残る蜀黍の片付けをなす

母の短歌集

避難所より仮設住宅に移りたる 老い等の孤独死心の痛む

母の短歌集

「チロルの森」の草原に遊ぶ山羊の群れ 乳を搾りし遠き日思ふ

母の短歌集

とり残しのゴーヤーいつしか橙色 不気味に割れて赤き種見ゆ

母の短歌集

リニア線が飯田を通るは十七年後 もはや黄泉なる夫と居るらむ

母の短歌集

馬鈴薯を掘れば忽ち天道虫 茄子やトマトの葉に散らばりぬ

母の短歌集

里芋の葉にたまりたる露玉に 亡き兄と飾りし七夕想ふ

母の短歌集

それぞれに深き意味持つ吊し雛 米俵は食蛤は貞操

母の短歌集

曾孫の健やかな成長祈りつつ 吊し雛二連十四体を縫ふ

母の短歌集

年々に娘ととり来し山蕗も 今年は買ひて伽羅蕗を煮る

母の短歌集

夕菅の莟数へる夕べの庭 青蛙幾匹か葉群より飛ぶ

母の短歌集

母の日に瓦礫の上に白カーネーション 供へる若き等の姿よ哀し