2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

火とぼし山

湖を泳ぐ娘 2 二人が話をしていると、 「ばしゃ、ばしゃ」 遠くの方から、音が聞こえてき ました。 「何の音だろう」 手長と足長は、あたりをみわた しました。 月あかりに照らされてみえたも の、それは湖を泳いでいる娘の 姿でした。 娘は、頭に荷物をの…

火とぼし山

湖を泳ぐ娘 1 月のきれいな夜でした。 手長と足長は、諏訪湖で魚をとっ ていました。 手長は、魚をとるのが上手でした。 今夜も、大きな鯉を三匹もつかま えました。 「ねえ、あなた。明日の朝、この 鯉を明神さまに届けましょう」 「そうだね。明神さまは…

火とぼし山

次郎の見合い 11 おまえのことを、あんなに思って くれるおなごは、ほかにいないか らのぅ」 明神さまは、心の中で次郎に話し かけました。 「きよと次郎は、これからどうな るのだろう。若い二人が離れて 暮らしていると、いつしか心まで 離れてしまうの…

火とぼし山

次郎の見合い 10 「まだ決めていない」 「じゃあ、私ともつきあって。ね、 いいでしょ。次郎さん」 二人の話を聞いていた明神さま は、「やはり、こういうことだった のか」と思いました。 きよがさみしそうだったわけが、 よくわかりました。 「次郎よ。…

火とぼし山

次郎の見合い 9 すると、 「ねぇ、次郎さん。これからも 私と会ってくれる」 「おらは、みよちゃんと会う気 はない」 次郎が、ぶっきらぼうにいいま した。 「なぜ? 次郎さん」 「おらには、小さな時からつき あっている人がいる」 「誰なの?」 「そんな…

火とぼし山

次郎の見合い 13 「これは、一体どういうことなのじゃ。 わしには、さっぱりわからん」 明神さまは、小声でつぶやきました。 そして、桑のかげから、二人の様子 をじっとみていました。 次郎とみよは、楽しそうに話をして います。 笑い声も聞こえてきまし…

火とぼし山

次郎の見合い 12 明神さまは、あわてて桑のかげ にかくれました。 「次郎さん、こんにちは」 「みよちゃん。どうしたの」 「私、次郎さんに会いたくて、 ここへきたの。次郎さんに会え て、うれしいわ」 娘が、うれしそうにいいました。 「みよちゃん。よ…

火とぼし山

次郎の見合い 11 「どこの若者だろう」 若者の顔をみた明神さまは、あっ と声をあげそうになりました。 きよの大好きな人、次郎だったか らです。 その時。 「次郎さーん。私よー」 どこからか、女の人の声が聞こえ てきました。 みると、桑畑の向こうから…

火とぼし山

次郎の見合い 10 次郎さんは、小さな時から、私の ことを思っていてくれると信じて いた。 でも、次郎さんの心の中には、見 合いをした人が住んでいるのでは ないだろうかと、きよは思いました。 次郎さんが、その人を好きになっ たらどうしよう。 私は、…

火とぼし山

次郎の見合い 9 きよは、「とてもおもしろい人」 「大きな農家の一人娘」「養子」 ということばが、気になりました。 貧乏なわが家と違い、その人の 家は裕福なんだろうなと、きよは 思いました。 「次郎さんは、これからもその人 とつきあうの」 「おらは…

火とぼし山

次郎の見合い 8 「やっぱり、次郎さんはその人と 会ったのね。次郎さんは人がい いから、ことわりきれないだろう なと思っていたわ。で、どんな人 だったの」 「とてもおもしろい人だった。会 っている間、二人とも笑いっぱな しだった。その人ね、大きな農…

火とぼし山

次郎の見合い 7 一ヶ月後。 きよと次郎は、再び会いました。 「次郎さん。姪の人と見合いをし たの」 きよが、さりげなく聞きました。 次郎の見合いの話など、きよは 聞きたくありません。 でも、気になってしかたがなかっ たのです。 「うん。した」 「次…

火とぼし山

次郎の見合い 6 次郎さんたら、一カ月ぶりに会った というのに、見合いの話などして、 どういうつもりなのかしら。いやな 次郎さん。 でも、次郎さんがこっそり見合いを したら、それもいやだろうなと思い ました。 私は、小さな時から、次郎さんが大 好きだ…

火とぼし山

次郎の見合い 5 次の朝。 「ねぇ、次郎さん。今度はいつ会 えるの」 きよが、いつものように聞きました。 「今、野良の仕事が忙しい。だか ら、今度会うのは、一カ月後かな」 「一カ月後? そんなのいや。私、毎 日でも次郎さんに会いたい」 「きよちゃん。毎…

火とぼし山

次郎の見合い 4 「次郎さん。ことわったなら、 そんな話しなくてもいいのに」 きよは、次郎の気持がわかりま せんでした。 「ことわったけれど、どうしても 姪と会ってほしいというんだ」 「次郎さんは、その人と会うつ もりなの」 「いや、会うつもりはな…

火とぼし山

次郎の見合い 3 「きよちゃん」 「次郎さん、何?」 「おこらないで聞いてくれる」 「何なの、次郎さん」 「きよちゃんには、今まで何で も話してきた。おれ、かくしご とをしたくないので、おもいき って話す。きよちゃん、おこら ないでね」 次郎は、再び…

火とぼし山

次郎の見合い 2 きよは、次郎の笑顔を思いうか べながら、湖のまわりを足早に 歩いて行きました。 一カ月ぶりに会えると思うと、何 時間もかかる遠い道のりも、暗 い夜道も、少しも苦になりませ んでした。 何時間もかけ、やっと次郎の所 へつきました。 「…

火とぼし山

次郎の見合い 1 一カ月がすぎました。 今日は、次郎と会う日。 きよにとって、この一カ月は、気 が遠くなるほど長い時間でした。 後二十九日、後十五日、後八日 ・・・と、次郎に会える日を指おり 数えて待っていました。 「次郎さんに会いたい」 「次郎さん…

火とぼし山

月に一度の出会い 14 その夜。 「きよ。このごろ元気がないけれ ど、どうしたんだい」 おとうさんが心配して聞きました。 「とうちゃん。なんでもないわ。心 配しないで」 「きよ。次郎君と、けんかでもした のかい」 「とうちゃん。私たち、けんかは一 度…

火とぼし山

月に一度の出会い 13 「大好きな二人が、一カ月も会 えないなんて、つらいだろうな。 なんで会えないのじゃろ。 娘が青年に会いたいと思うのも、 無理はないのぅ」 娘の後姿をみながら、明神さま は小声でつぶやきました。 「娘よ。青年と会えない日には、 …

火とぼし山

月に一度の出会い 12 数日後。 明神さまは、湖のほとりで、ま た娘をみかけました。 娘は、西山にむかって、なにか しゃべっています。 「次郎さん。元気? 今、何を しているの。一カ月も、次郎さん に会えないなんて、私さみしい。 一日も早く、次郎さん…

火とぼし山

月に一度の出会い 11 「まあ、どんなに仲がよくても、 たまにはけんかもするさ。この わしだって、妻とけんかをする。 わしが、このように妻のやしき へ通うようになった原因だって、 ほんのささいなけんかだったも のな」 明神さまは、奥さんとけんかし …

火とぼし山

月に一度の出会い 10 「おや? 向こうから歩いてく るのは、あの娘だ。名前は、な んていったかのぅ。そうそう、き よとかいっとったな。湖の氷の 上で会ってから、ずいぶんたつ のぅ。何日ぶりじゃろ。 あの夜は、あの娘、とてもうれ しそうな顔をしてい…

火とぼし山

月に一度の出会い 9 「なぜ話せなかったの」 「なんか、はずかしくて。そん なにしょっちゅう家に帰るのは おかしいと、主人にといつめら れた。だから、きよちゃんのこ とを話したんだ」 「そうしたら、なんていったの」 「きよちゃんとは、月に一度、会 …

火とぼし山

月に一度の出会い 8 「おれ、きよちゃんと会う日には、 家に用事があるといって、ここへ きていたんだ」 「次郎さん。なぜ、ほんとのことを、 主人にいわなかったの。最初にき ちんと話しておけば、なんでもない ことなのに。次郎さんは、私と会う ことが迷…

火とぼし山

月に一度の出会い 7 すると、 「きよちゃん。実は、おれ・・・」 次郎が、いいにくそうに話を始め ました。 「次郎さん。どうしたの」 「実は、きよちゃんと」 次郎さんて、ほんとにじれったい 人ね。 いいたいことがあれば、はっきり いえばいいのにと、き…

火とぼし山

月に一度の出会い 6 何に対する不安なのか、次郎にも わかりませんでした。 次郎は、きよのそばにいると、ほ っとします。 そして、心がなごみました。 「きよちゃんて、ふしぎな人だな」 次郎は、きよと会うたびにそう思 います。 次の朝。 「次郎さん。今…

火とぼし山

月に一度の出会い 5 「うまいっ」 次郎は、こんなおいしい酒を飲ん だのは、初めてでした。 会うたびに、きよちゃんが持って くる酒が熱くなっている。 きよの自分に対する思いが、日ご とに強くなっていることに気づき、 きよちゃんの気持は、うれしい。 …

火とぼし山

月に一度の出会い 4 「きよちゃんの手は、温かいんだ ね。ちょっとさわっていい」 「どうぞ」 きよは、手をさしだしました。 その手は、びっくりするほど熱い 手でした。 「きよちゃん。熱があるんじゃな い? だいじょうぶ」 次郎が心配して聞きました。 …

火とぼし山

月に一度の出会い 3 「私は、次郎さんの笑顔をみる だけで幸せ」 きよは、心の中でそっとつぶや きました。 「次郎さん。いつものお酒よ」 「きよちゃん。このとっくり、 どうしたの。すごく熱い」 「いつものように、手で温めて きただけよ」 きよちゃんは…