2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

火とぼし山

月に一度の出会い 1 寒さの厳しい諏訪にも、ようやく あたたかな春がやってきました。 諏訪湖の氷も、とけはじめました。 今日は、次郎と会う日。 きよは、湖のまわりを歩いていく ことにしました。 湖のまわりを歩くと、氷の上を歩 く何倍もの時間がかかり…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 13 「じゃあ、早速調べてみましょう」 「手長、足長。娘のこと、たのん だぞ」 明神さまは、手長と足長に、娘の ことをお願いしました。 一方、きよと次郎は、いつものよ うに一晩中語りあかしました。 次の朝。 きよは、さみしそうに…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 12 「大好きな青年に、会うためじゃ。 湖の氷の上を歩けば、短時間で青 年の所へ行ける。娘が毎晩会いに 行くとは思わないが、娘をみはって いてほしい。手長と足長に頼んで おけば、安心じゃからのぅ」 「明神さま。その娘は、どこに…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 11 「なんでございましょう」 「夜中に、湖の氷の上を歩く娘が いるのじゃ」 「氷の上を歩く娘? 明神さま。湖 の氷は、まだ薄い。氷の上を歩く なんて、危険です。こんな寒い日 に、湖に落ちれば死んでしまいま すよ」 足長が、心配し…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 10 娘は、青年に会うために、山の 中へ入っていった。うらやましい くらい仲のいいカップルだったよ」 明神さまは、奥さんに娘の様子 を話しました。 その夜。 明神さまは、けらいの手長と足長 をよびました。 「明神さま。何かご用で…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 9 娘をみとどけ安心した明神さまは、 下諏訪の奥さんのやしきへいそぎ ました。 「ただいま」 「おかえりなさい。遅いから心配 していたのよ」 奥さんが、ほっとした顔でいいま した。 「ここへくる途中、湖の氷の上で、 娘に会ってのぅ…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 8 「うまいっ」 次郎は、うまそうに酒を飲みま した。 「きよちゃん。この酒、温かい。 どうしたの」 「次郎さんのことを思いながら、 歩いてきたの。それだけよ」 きよちゃんは、おらのことをこ んなにも思っていてくれる。 次郎は、幸…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 7 「私、一分でも早く、次郎さんに 会いたかったから」 「きよちゃん。湖の氷は、まだ薄 い。氷が割れたら、どうするの。 こんな寒い夜、湖に落ちたら死 んでしまうよ。たのむから、危険 なことはしないでね」 次郎は、きよのことが心配…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 6 無事に湖をわたりおえた娘は、山 に向かって歩き始めました。 娘は、急な道をどんどん歩いてい きます。 「なんて足の早い娘だろう」 明神さまは、小声でつぶやきました。 「次郎さん、こんばんは」 「きよちゃん。今夜は、ずいぶん …

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 3 「あぶない」 「そっちへ行ってはだめ」 明神さまは、はらはらしながら、 娘の後をついていきました。 「娘よ。なぜ湖の氷の上を歩く のじゃ。湖の氷は、まだ薄い。 湖に落ちれば、死んでしまうぞ。 このわしでさえ、今夜初めて氷 の…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 2 明神さまは、諏訪地方を守って いる神様。 農耕の神様・狩猟の神様・風の 神様ともいわれています。 明神さまは、下諏訪に住んでい る奥さんの所へ行く途中でした。 「娘か。こんな寒い夜、あの娘 はどこへ行くのだろう」 娘のことが…

火とぼし山

湖の氷の上を歩く娘 1 北風が吹く寒い季節になりました。 諏訪湖には、氷がはっています。 今日は、次郎と会う日。 きよは、湖の氷の上を歩いて行こ うと思いました。 でも、湖の氷は薄く、氷の上にの ぼると、「みしっ」「ばりっ」と音が します。 こんな…

火とぼし山

再会 9 「じゃあ、五日後に会おう。きよ ちゃん。会えるのを楽しみにして いるよ」 きよは、心ひかれる思いで家に 帰りました。 その後。 二人は、月に何度か会いました。 霧ケ峰高原へ花をみに行った時 のことや、幼い日の思い出を、一 晩中語りあかしまし…

火とぼし山

再会 8 東の空が、だんだんに明るくなっ てきました。 「きよちゃん。ぼつぼつ帰らない と、仕事に間に合わないよ。一睡 もしていないけれど、だいじょうぶ」 「若いから、平気よ。じゃあ、帰 るわ。次郎さん、今度はいつ会え るの」 「十日後、会おう」 「…

火とぼし山

再会 7 「ばあちゃんから聞いたの。ばあ ちゃんの家でも、蚕を飼っている から」 「そうか」 「次郎さん。野良の仕事は、疲れ るでしょ」 「なれない仕事だから疲れる。夜 になると、体中が痛い」 次郎が、腰をさすりながらいいま した。 「次郎さん。体だ…

火とぼし山

再会 6 「おらが働いている家では、蚕を たくさん飼っている。桑の葉をつ むのは、おらの仕事なんだ。きよ ちゃん。諏訪地方の養蚕は、誰が 始めたか知っている?」 「諏訪の神様と奥さまが、始めた んでしょ。二人は、寒さに強い桑 の木をとりよせ、伊勢か…

火とぼし山 

再会 5 「おいしいでしょ。次郎さん」 「うん、おいしい。きよちゃん、 中に入っている梅ぼしも、おいし いね」 「その梅ぼし、私がつけたの」 「へぇー、上手につかっているね。 きよちゃん。このむすび、温かい けれど、どうしたの」 「私、手で温めなが…

火とぼし山

再会 4 次郎の笑顔をみたとたん、きよ は疲れがいっぺんにふきとびま した。 「次郎さん。この一週間、とて も長かったわ。時間が止まって いるのではないかと思ったくらい」 「おらも」 二人は、再会できたことを、心か ら喜びました。 「はい、次郎さん。…

火とぼし山

再会 3 しかし、歩いても、歩いても、な かなか次郎の所へたどりつけま せん。 小さな火をみてから、一時間後。 やっと、次郎の所へたどりつきま した。 家を出てから、どのくらいの時間 がたっているのでしょうか。 「次郎さん。会いたかったわ」 きよは、…

火とぼし山

再会 2 しばらく行くと、あたりが真っ暗 になりました。 きよはあかりに火をともし、諏訪 湖のまわりを足早に歩いて行き ました。 「次郎さん。早く火をたいてね」 きよは、心の中で祈りました。 西山に、ぽっと小さな火がとも りました。 次郎と約束してい…

火とぼし山

再会 1 七日がすぎました。 今日は、次郎と会う日。 早めに仕事を終えたきよは、西山 に太陽が沈む頃、次郎が住む村に 向かって出発しました。 「とうちゃん、かあちゃん。行っ てきます」 「きよ、気をつけて行くのだよ。 次郎君によろしくな」 父と母が、…

火とぼし山

次郎、西の村へ 10 年頃になった二人は、いつしか強 く心をひかれるようになっていた のです。 三日後。 次郎は、西の村へ引っ越していき ました。 「次郎さん。約束を忘れないでね。 七日後、会えるのを楽しみにして いるわ」 「おらも、きよちゃんに会え…

火とぼし山

次郎、西の村へ 9 「十日後に、会おう」 「次郎さん。場所がわかるように、 うんと大きな火をたいてね」 「うん、わかった」 きよと次郎は、かたく約束しました。 二人は、おさななじみ。 小さな時から、仲良しでした。 「きよちゃんと次郎ちゃんは、ほ ん…

火とぼし山

次郎、西の村へ 8 「だいじょうぶ。次郎さん」 きよは、きっぱりいいました。 「大好きな次郎さんのためなら、 私どんなことでもする」 きよは、心の中でそっとつぶや きました。 「次郎さん。お願いがあるの。私 と会う日には、大きな火をたいて ほしいの…

火とぼし山

次郎、西の村へ 7 「次郎さん。引越しをしても、私 と会ってくれる?」 「もちろん。きよちゃん、時々会 おうね」 「どうやって会うの」 「おらは、あまり休みがない。だ から、夜しか会えない」 次郎がさみしそうにいいました。 「じゃあ、私が会いに行く…

火とぼし山

次郎、西の村へ 6 「次郎さん。どこへ引っ越すの」 「諏訪湖の西にある村。さっき、 白鷺が飛んでいった方向にある 村だよ」 西山をゆびさし、次郎がいいま した。 「私、次郎さんと別れるなんて、 いや。ぜったいにいや」 きよは、大好きな次郎とはなれて …

火とぼし山

次郎、西の村へ 5 「えっ」 きよは、次のことばがでませんで した。 「きよちゃん。いい仕事がみつか ったんだ」 「どんな仕事なの」 「大きな農家で、働くことになった」 「次郎さん。いつ引越しをするの」 「三日後」 「三日後?」 「そう、三日後。仕事…

火とぼし山

次郎、西の村へ 4 「やっとみつけたぁ」 そういって、二人でとびあがって よろこんだことも、思い出しました。 「春の日をあび、福寿草の花が、き らきら光っていた。ほんとにきれい だったね。次郎さん、また福寿草の 花をみに行こうよ」 きよがいいいまし…

火とぼし山

次郎、西の村へ 3 「守屋山へ着いてからも、福寿草 の花を探して、山の中をあちこち 歩きまわった」 「でも、その日、花をみつけるこ とはできなかった。あきらめきれ ず、次の日曜日、また守屋山へ 行ったね」 「二回目に行った時も、福寿草の 花はなかな…

火とぼし山

次郎、西の村へ 2 「私は、あるわ。白鷺のように羽 があれば、自分が行きたい所へ 自由に飛んで行けるもの」 きよが、白鷺をみながらいいました。 「次郎さん。諏訪湖の西といった ら、何を思い出す?」 「守屋山かな」 「私も」 「何年か前、福寿草の花を…