2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

雨に濡れる石畳下り宗紙愛用の 泉の水を味はひて飲む

母の短歌集

何時か吾も受けねばならぬ介護保険 制度のしくみ寂しみて読む

母の短歌集

久々の青空の下電線に 小鳥等五線譜のごとくとどまる

母の短歌集

日の向きに斜めになりて勢へる アロエの鉢の向きを変へたり

母の短歌集

何げなき人の言葉に傷つける 友を思ひて話題をそらす

母の短歌集

独り守る独りの暮らしに吾が馴れて 夫在りし日より逞しく老ゆ

母の短歌集

文字よりも小さき虫が今宵読む 新アララギの上をひたすらに這ふ

母の短歌集

新アララギの表紙絵にのりし蝸牛 思ひつつブロックの塀に角出すを見る

母の短歌集

亡き兄に面影の良く似し俳優の 主役のドラマ親しみて見る

母の短歌集

仕合はせを人の物差しで計るなと 夫亡き吾に兄言ひし忘れず

母の短歌集

心疲れし今宵は人の歌まねて 庭の黄バラを風呂に浮かしぬ

母の短歌集

耕運機去れば忽ち黒土に 鵯が降り来雀等が下り来

母の短歌集

登り来て息ととのふる朴の木下 落葉もたげて二輪草咲く

母の短歌集

その気になれば何時でも来よと言ひ呉るる 子等あれば安し一人暮らせど

母の短歌集

緑打つ雨にこもりて心安し 和紙を広げてちぎり絵に励む

母の短歌集

幾夜さか耳につきたる蛙の声 何時しか眠りを誘う声となる

母の短歌集

窯出しの楽焼の鉢ぴちぴちと 音立て徐々に色変はりゆく

母の短歌集

亡き兄が吾につけたる渾名なる 足長蜂を愛しみて見る

母の短歌集

わが育てし三葉アスパラ独活茗荷 春の香親し今宵の食卓

母の短歌集

炊飯器やレンジの電子音なる厨に 亡き母のせし炊事思ひぬ

母の短歌集

山草を好みし娘の植ゑゆきし イカリ草萌え二輪草萌ゆる

母の短歌集

猿庫の苔むしし岩間くぐり落つる 名水は喉に沁み渡りゆく

母の短歌集

石垣の間に萌えしカモミール 残して今朝の川掃除終はる

母の短歌集

知至先生の面影胸に巡るみ庭 クリスマスローズの花の優しき

母の短歌集

新アララギに心新に励まむと 詠める歌多し吾も励まむ

母の短歌集

苦土石灰まく菜園に亡き夫の 好みて植ゑし花大根萌ゆ

母の短歌集

里帰りの吾等に池の鯉すくひ 持て成しくれし父母も兄も亡し

母の短歌集

無人駅の寒風吹き込む待合室 人の善意の座布団温し

母の短歌集

「母さんの金メダルだよ」と胸にかける 清水選手に涙湧きくる

母の短歌集

老人会でサラエボへ送る「愛のひざかけ」 今宵編みつぐ生きる証と