2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

母の短歌集

熟れしトマト夕べにつめば両の手に 日のほとり熱く伝はりてくる

母の短歌集

一年に一度の胃カメラ検査に 異常なければ食欲の湧く

母の短歌集

娘と話す受話器に今朝は郭公の 澄みたる声の透りて聞こゆ

母の短歌集

時間決め電話をくるる娘三人 ありて一人の暮らし安けし

母の短歌集

娘等に着せし遠き日思ひつつ 孫の浴衣の腰揚げをする

母の短歌集

寂しともこの上もなく自由なる 独りの暮し何時迄続く

母の短歌集

ささやかな喜びもちて巡る庭 猩々袴の茎立ちて咲く

母の短歌集

コサージュにせむ繭玉を剥がしつつ 養蚕に励みし父母を偲びぬ

母の短歌集

生け置きし赤芽柳の莟落つる かそけき音を一人聞きをり

母の短歌集

いつ見ても良寛像は素直なりと 詠まれし座像は知至先生に似る

母の短歌集

湯沸かしのケトルの音と飯炊けし 電子音鳴る独り居の厨に

母の短歌集

雲海に筋なし広がる茜雲 色変りつつ消えゆくが見ゆ

母の短歌集

今日生きし証のごとく雨止みし 夕べの庭に芥を焼きをり

母の短歌集

一人居のほしいままなる安らぎに 雨の日暮れて夕べの鐘きく

母の短歌集

ポスト迄路の白線百メートル 背すぢを伸ばし線上を行く

母の短歌集

こほろぎのか細くなりし声聞きつつ 飯田蕪菜の抜きたてをする

母の短歌集

ふれ合ひのバザーに売れ残りし短冊かけ 買ひ来てわが歌書きしを飾る

母の短歌集

健やかな老いを願ひて春の日に 照らふケルンに小さき石置く

母の短歌集

アルバムを見つつ夫在りて四人の子と 移り住みたる村々を思ふ

母の短歌集

待ち侘びし娘の退院の日を迎へ 梅雨明けの日に布団を干しぬ

母の短歌集

意に添はぬ事のみ多き一日にて 夕べ黄バラの花に寄りゆく

母の短歌集

久々の毛糸の感触親しくて 雨の一日をチョッキ編みつぐ

母の短歌集

打順待つマレットゴルフ場は白々と 四照花の花盛り咲きをり

母の短歌集

如何様にも怠けられる一人暮し 自らを励まし一日の始まる

母の短歌集

仕上がりし木目込人形のおさげ髪 梳けば娘の幼顔浮かぶ

母の短歌集

狭き畑は連作さけるもままならず 小さく区切りてマルチをしきぬ

母の短歌集

門先の温かき日ざしの中に咲く 春蘭見れば湧く思ひあり

母の短歌集

雲間より差しくる朝日に煌きつつ 舞ひくる雪は地につかず消ゆ

[追憶の風]母の短歌集

山峡の谷間を白く包みゐし 霧のぼりくるわが立つ岡に

母の短歌集

紙のごとく軽き宇宙食のストロベリー 含めば清かに香り広がる