2015-01-01から1年間の記事一覧

母の短歌集

解りにくき賞味期限と消費期限 老いし吾等も理解し得たり

母の短歌集

外灯につけて飾れる岐阜蝶の 雨に洗はれ春の日に映ゆ

母の短歌集

山桜咲き盛る季節の岐阜蝶の 監視の役は楽しみなりき

母の短歌集

「春の女神」とふ岐阜蝶を万寿山に 監視に行きて初めて知りき

母の短歌集

年間に三百億枚のレジ袋 芥になると減らすマイバック持つ

母の短歌集

雨の日はビニール袋に新聞を入れ 配る人等の心遣ひ嬉し

母の短歌集

折々にワン切りの電話掛りくる 何の目的か不気味に思ふ

母の短歌集

母逝きし年迄残るは二年か まだまだ吾は生きたしと思ふ

母の短歌集

大掃除に疲れし老いの顔写る 姿見磨きすべて終りぬ

母の短歌集

続け来し家計簿日記のインクの香 清しきに向へば心改まる

母の短歌集

老人と児等と交流のお手玉を 手に合はせ小さく縫ひぬ

母の短歌集

老いたれど生命力の証しなる 伸び良き爪を慈しみて切る

母の短歌集

兵越峠の信州軍と遠州軍の 国盗り綱引今年も負けたり

母の短歌集

戦時下に嫌々食べしすいとんも 専用の粉と肉にて旨し

母の短歌集

賞味期限改竄のニュースあり 消費者は何を信じて買へば良いのか

母の短歌集

うから等の心思へば切なくて 無言館の中を黙し巡りぬ

母の短歌集

無言館に男子の本懐と両親に 宛てし葉書が色褪せて残る

母の短歌集

左千夫先生生家の土間の竈の前に 火吹き竹持つ母の幻

母の短歌集

茶博士と呼ばれし左千夫愛用の 赤楽の茶碗に心ひかれ立つ

母の短歌集

肩巾縮め土屋先生召されたる 左千夫形見の道行を見つ

母の短歌集

「野菊の墓」に老いの心も若やげど 膝庇ひつつ石段を下る

母の短歌集

再びは渡ることなけむ矢切の渡し 和ぎし川面を忽ち過ぎぬ

母の短歌集

八十の祝に娘の贈りくれし ミシンに古着のリフォームをなす

母の短歌集

若き日に習ひし事が趣味となり 老いの暮しに潤ひを持つ

母の短歌集

家の事をきちむと成せば習ひ事 何しても良しと夫言ひくれき

母の短歌集

松喰虫に枯れし庭松二本伐り 蝉しぐれ聞かず夏も終りぬ

母の短歌集

年々の習はしとなりし家中の 時計の電池盆前に替へる

母の短歌集

長男の晴れ姿も見ず逝きし娘を 哀れに切なく今日は想ひぬ

母の短歌集

幸あれと新郎新婦に五色のバラの 香に立つ花弁を祈りつつまく

母の短歌集

娘の遺影を婿の辺に置く結婚式場 悲しみこみ上げ眼を反らす