女神さまとの約束


   女神さまとの約束 7


「じゃあ、ここへつれてくる人を、どう
やって選ぶの?」
「女神さまは、神さまを信じている、心
のやさしい人を選ぶようですよ」
白駒は、そういいました。




一本だけだった黄金色の花も、今では十
数本にふえました。岩場からは、新しい
湯がどんどんわいてきます。
「福ちゃんのおかげで、おらはこんなに
元気になれた。ありがたいことじゃ。福
ちゃん、どうもありがとう」
元気になった人々は、心から福に感謝し
ました。
何千人もの人が、黄金色の花びらで元気
になりました。
福も、病気で苦しんでいる人をたすける
ことに、いきがいを感じています。そして、
生き生きと毎日病人の世話をしています。




食べ物は、白駒が運んでくれます。
食べ物といっても、小さな赤い木の実だけ。
小指の頭くらいの大きさの、つややかな赤
い実でした。なんともいえない良い香りが
しました。
その木の実を口にすると、なぜかおなかが
いっぱいになりました。たったひとつ木の
実を食べただけなのに、おなかの中でおい
しさがぱーとひろがるような感じでした。
「白駒。これ、何の木の実?」
「女神さまも、毎日この木の実を食べてい
ますよ。でも、名前はしりません」
白駒がいいました。



 
それから、十年がすぎました。
硫黄岳での生活は、夏は涼しく快適でした。
夏になると、硫黄岳の砂地には、駒草やウ
ルップ草などの高山植物が美しく咲きます。
福は、高山植物が咲くのを、何よりも楽し
みにしていました。
福は、白駒の背にのり、硫黄岳の一帯を散
歩します。



しかし、冬は寒さがきびしく、雪が何メー
トルも降ります。そして、その雪は、六月
頃までとけません。長い間、毎日白い雪を
みてくらさなくてはなりません。
福は、険しい岩場の生活に、だんだんあき
てきました。
そして、人をすくうことにも、むなしさを
感じるようになっていました。




「とうちゃんは、元気でいるかしら?」
「たきたてのあたたかなごはんが食べたい
な」
「大好きなりんごも食べたい」
「おいしい魚も食べたい」
そう思うと、福は急に家に帰りたくなって
しまいました。



        つづく