硫黄岳に咲いた黄金色の花


昔、むかし、ずぅーと昔。
八ヶ岳に、女神さまが住んでおられた頃のお話
です。
八ヶ岳には、黄金色の花が咲いている」、こ
んなうわさが、ふもとの村に流れていました。
夏になると、ふもとの人々は、黄金色の花をさ
がしに、八ヶ岳へ登ります。しかし、黄金色の
花をみつけることはできませんでした。



中山峠の近くに、さいのかわらという山深い部
落があります。その部落は、茅野から佐久へぬ
ける道筋にありました。
部落には、長者やしきとよばれる大きな家があり、
長者と娘が仲良く暮らしています。
娘の名前は、ふく。
心のやさしい美しい娘でした。



大雪が降った夜のことです。
「とんとん、とんとん」
戸をたたく音が聞こえました。
「こんなに遅く、誰だろう?しかも、こんな大
雪の日に・・・」
長者とふくは、顔をみあわせました。



「どなたかな」
長者は、やさしく声をかけました。 
「旅の者です。今晩一晩泊めていただけないで
しょうか」
戸をあけると、女の人が立っていました。
着物は雪でびっしょりぬれ、ぶるぶるふるえて
います。
貧しいみなりをした、美しい人でした。



「寒かったでしょう。さあ、早く中へはいりな
さい」
「ありがとうございます。本当に助かります」
女の人は、うれしそうでした。
ふくは、女の人のために、あたたかな食事と風
呂を用意しました。



次の朝。
女の人は、何度もお礼をいい、やしきをあとに
しました。
「あんな美しい人が、大雪の夜どこへいくつも
りだったのだろう」
ふくは、ふしぎに思いました。
「貧しいみなりをしていたけれど、女神さまの
ように神々しい人だったね。どこのかたかしら」
二人は、時々、大雪の夜に泊まった女の人の話を
しました。


          つづく