竜の姿をみた少女

  
   竜の姿をみた少女 1


たてしな山のふもとに、美しい湖があります。
湖ができる前、ここはしらかばの林だったそ
うです。人々は、その湖を「しらかば湖」と
よんでいます。


 
「おっかあ、おっかあー。どこにいるー。
いたら返事をしてくりょー」
湖のほとりにただずんでいると、たてしな山
のほうから、妻をさがして歩く三郎の声が聞
こえてくるそうです。
また、「三郎さーん、三郎さーん。どこへ行
ってしまったのー。早く帰ってきてぇ」とい
う三郎の妻の声も、どこからか聞こえてくる
とか。 



湖の近くに、心のやさしい少女が、おとうさ
んと二人で暮らしています。
少女の名前は、かな。
日曜日になると、かなはおとうさんと一緒に、
しらかば湖へつりに行きます。
そして、おとうさんの横にすわり、湖をじっと
ながめていることが好きでした。 


 
「かなは、本当にしらかば湖が好きなんだね」
「私、この湖が大好き。湖をみていると、なく
なったかあちゃんを思い出すの。
かあちゃんもこの湖が好きだったね」
「そうだね。かあちゃんもこの湖が好きだった
ね。日曜日になると、三人でよくここへきたね」
かあちゃんは、今どうしているかしら?」
「あちらの国で、元気でくらしているさ」
かあちゃんが元気だといいね」
かなは、なくなったおかあさんのことを、一日
も忘れたことがありません。 



「とうちゃん、この湖に竜が住んでいるって、
本当?」
「さあなぁ。村には竜が住んでいるといういい
つたえがあるけれど、竜の姿をみた人は誰もい
ないからね。でも、この湖には、竜が住んでい
るかもしれないよ」
おとうさんは、夢みるようにいいました。
「ねえ、とうちゃん。村に伝わっている竜の話
って、どんな話なの?」
「じゃあ、今日は竜になった三郎の話をしてあ
げよう」



そのお話とは。
むかーし、昔。ずぅーと昔。
たてしな山のふもとに、小さな村がありました。
その村に、太郎・次郎・三郎という、仲のいい
兄弟が住んでいました。
ところが、末っ子の三郎が、あまりに美しい、
働き者の妻をもらったので、兄たちは三郎にや
きもちをやきました。
やきもちをやいた兄たちは、三郎をこまらせよ
うと、何ヶ月もかけて相談しました。
そして、兄たちは三郎を魚つりにさそいだし、
三郎を湖の深いふちにつき落としてしまったの
です。


       つづく


童話「竜の姿をみた少女「は、みほようこの二
冊目の童話集「竜神になった三郎」の続編。




竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)