女神さまとの約束


   女神さまとの約束1


八ヶ岳のふもと、中山峠の近くに、さいのか
わらという山深い部落があります。
その部落は、茅野から佐久へぬける道筋にあ
りました。
部落には、長者やしきとよばれる大きな家が
ありました。やしきでは、長者と娘が仲良く
暮らしています。
娘の名前は、ふく。
美しい、父親思いのやさしい娘でした。



大雪が降った夜。
「とんとん、とんとん」
玄関の戸をたたく音がしました。
「こんなに遅く、誰だろう?しかも、こんな
大雪の日に・・・」
長者とふくは、おもわず顔をみあわせました。



「どなたかな」
長者が、やさしく声をかけました。 
「旅の者です。今晩一晩泊めていただけない
でしょうか」
戸をあけると、美しい女の人が立っていました。
雪でびっしょりぬれ、寒さのためぶるぶるふる
えています。
貧しいみなりをした、若い女の人でした。
「寒かったでしょ。さあ、早く中へはいりなさ
い」
「ありがとうございます。本当に助かります」
女の人は、うれしそうでした。
ふくは、いそいであたたかな食事と風呂を用意
しました。女の人はぐっすり休み、元気になり
ました。



次の朝。
女の人は「ありがとうございました」と、何度
もお礼をいい、やしきをあとにしました。
「大雪の夜、あの人はどこへ行くつもりだった
のだろう」
ふくは、女の人のことが気になってしかたがあ
りません。
「貧しいみなりをしていたけれど、女神さまの
ように美しい人だったね。どこのかたかしら」
長者とふくは、時々大雪の夜泊まった女の人の
話をしました。
二人は困っている旅人をみると知らん顔ができ
ず、時々旅人を泊めてあげていたのです。


 
夏のある朝。
長者は、具合が悪くなりたおれてしまいました。
長者は物が食べられなくなり、日ごとに弱ってい
きました。
「ふくや、わしはもうだめだ。長くは生きられな
いだろう。わしが死んでも、一人でしっかり生き
ていくのだよ」
「とうちゃん。だいじょうぶだよ。きっと元気に
なれるから」
ふくは、そういって長者をはげましました。
「とうちゃんが死んでしまったら、私はひとりぼ
っちになってしまう」
そう思うと、ふくはいてもたってもいられません。


      つづく