それから一年後。
残暑の厳しい九月五日のことでした。
大好きなおとうさんが、心臓病で急になくな
ってしまいました。しんきんこうそくでした。
「かな、おじいちゃんとおばあちゃんに、か
わいがってもらったことを、いつまでも忘れな
いようにね。元気で明るく生きていくのだよ」
おとうさんはいいました。
そして、桃の実の形をした鈴を、かなにくれ
ました。
「リーン・リーン・コロンころん」
なんともいえない良い音がします。
「この鈴はね、鎌倉の和尚さんからいただいた
鈴だよ。この春、丘へ桜を見に行った時、かな
に小桜姫の話をしてあげたね。おぼえているか
な?この鈴は、小桜姫が大切にしていた鈴の一
つだよ。小桜姫はね、二つの鈴を大切にしてい
たのだよ。もう一つの鈴はね・・・」
ここまで話すと、おとうさんは安心したのか、
かなの手をしっかりにぎりました。
「かな、この鈴をいつまでも大切にするのだよ」
こういうと、おとうさんは靜かに息をひきとりま
した。時間がたつにつれ、おとうさんの体が、だ
んだんに冷たくなっていきました。
「とうちゃん、とうちゃん。目をあけて。ねえ、
とうちゃん、おきて・・・」
つづく
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