童話「竜の姿をみた少女」


童話「竜の姿をみた少女」4


「竜? そんなもの、いるはずないよ」
「うわさだよ、うわさ」
「村に伝わっている大昔の話だろ?」
「この世に、竜なんているはずないじゃん」
「かなちゃん、湖に竜が住んでいると思っている
の?ばっかみたい」
友だちは、口々にそういいます。



「となりのかなちゃんは、しらかば湖に竜が住ん
でいると信じているようだわ」
「この世に、竜なんているはずないのにね。何を
馬鹿なことをいっているのかしら」
「そういえば、かなちゃんのおとうさんも、湖に
竜がいると信じているみたいよ」
「ほんとうにおかしな親子だねぇ」
こどもたちだけでなく、大人もそういいました。



村の人たちは、どの人も「竜なんかいない」と思っ
ていました。
でも、かなは、「湖に竜が住んでいるのではないか
な」と思っていたのです。



山深い村にも、ようやくあたたかな春がやってきま
した。
湖のほとりでは、空色のいぬのふぐりの花が咲きは
じめました。かなは、いぬのふぐりの花が大好き。
「かな、この空色の花はね、いぬのふぐりという花
だよ。かわいい花だね。空のお星さんが、草むらで
かくれんぼしているみたいだね。いぬのふぐりの花
は、きびしい寒さの中で、春一番に咲くのだよ」
そういって、なくなったおかあさんが、教えてくれ
た花でした。



そんな春のある日。
かなは、一人で湖へ行きました
そして、しらかばの木の下で、ぼんやり湖をながめ
ていました。
すると・・・。
どこからか、小さな声が聞こえてきました。


                      つづく



童話「竜の姿をみた少女」は、みほようこの二冊
目の童話集・「竜神になった三郎」の続編として
書いたものです。




竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

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