かきつばたになった少女


   かきつばたになった少女9


「美しい少女だと評判の、あのかきつ
ばたさんなの?
おらは、かきつばたさんに会えるのを、
ずっと楽しみにしていたんだよ」
少年は、うれしそうにいいました。



「あなたの名前は、なんていうの?」
「おらの名前は、山彦」
「山彦?じゃあ、狩が上手で、足が早
いという、山彦さんなの?」
「そうだよ。おらがその山彦さ」
山彦は、大きくうなずきました。



山彦のことは、女神さまたちのあいだ
でも、うわさになっていました。
「霧ケ峰へ行くと、えものを追って走っ
ている、足の早い少年がいる。
色は黒いけれど、とてもりりしい少年
だ」と。



かきつばたも「いつか山彦に会いたい」
と思っていました。
かきつばたは、人間の少年を遠くからみ
たことはありますが、話をするのは今日
が初めてでした。


            つづく



かきつばたになった少女」は、信州
の霧ケ峰高原に伝わっている「かきつ
ばた」の伝説をヒントにして、
みほようこが書いた物語。



童話「かきつばたになった少女」は、
みほようこの四冊目の童話集「ライ
オンめざめる」に収録されています。



童話集「ライオンめざめる」は、昨年
十月、「鳥影社」から発行されました。
信州諏訪の「風の神様」から聞いたお
話が、三つのっています。