開善寺の早梅の精


   開善寺の早梅の精11


女の人は、文次の寝姿をじっとみ
ていました。


しきたへの手枕の野の梅ならば

 寝ての朝けの袖に匂はむ



女の人は、「ちぎりをかわす相手
梅の花ならば、翌朝はとてもよ
い香りが残っているでしょう」と
よんだのでしょうね。
女の人は歌を読むと、静かに奥へ
消えていきました。



どのくらいの時間がすぎたのでし
ょうか。
文次が目をさますと、美しい女の
人も、おいしい酒も、料理も消え
ていました。



文次は、一人ぽつんと、梅の木の
下に立っていました。
梅の花が、月あかりに照らされ美
しくみえます。
何事もなかったかのように、梅の
花の香りが、あたり一面にただよ
っていました。


            つづく



「開善寺の早梅の精」は、信州の
伊那谷にある「開善寺」に伝わっ
ている「早梅の精」の話をヒント
にして、みほようこが書いたもの。