火とぼし山


   火とぼし山10


「その梅ぼし、私がつけたのよ」
「へえー。上手につかっているね。
きよちゃん。このむすび、温かい
けれど、どうしたの」
「私、手で温めながら、歩いてき
たの」
二人は、ならんでむすびを食べま
した。



「次郎さん。今、どんな仕事をし
ているの」
「田んぼの草取りや、野菜の収穫
をしている。蚕も飼っているよ」
「蚕を?」



「おらが働いている家では、蚕を
たくさん飼っている。
桑の葉をつむのは、おらの仕事な
んだ。きよちゃん。諏訪地方の養
蚕は、誰が始めたか知っている」



「諏訪の神様と奥さまが、始めた
んでしょ。二人は、寒さに強い桑
の木をとりよせ、伊勢から技術者
をよんで、この地方に養蚕を広め
たんですってね」


              つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。