火とぼし山


   火とぼし山16


「ほんとに仲のいいカップルじゃ
のぅ。みていても、うらやましい
くらいじゃ。
娘の名前は、きよ。青年の名前は、
次郎というのか。やさしそうな、
感じのいい娘じゃのぅ。
娘のあのうれしそうな顔。なんて
すてきな笑顔だろう」



娘をみとどけ安心した明神さまは、
下諏訪の奥さんのやしきへいそぎ
ました。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅いから心配
していたのよ」
奥さんが、ほっとした顔でいいま
した。



「ここへくる途中、湖の氷の上で、
娘に会ってのぅ」
「氷の上で、娘さんに?」
「湖の氷は、まだ薄い。娘が湖に
落ちたら大変だと思って、そっと
後をつけたのじゃ。



娘は、青年に会うために、山の中
へ入っていった。うらやましいく
らい仲のいいカップルだったよ」
明神さまは、奥さんに娘の様子を
話しました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。