火とぼし山


   火とぼし山40


きよがさみしそうだったわけが、
よくわかりました。
「次郎よ。わしが、きよとおまえ
の姿をみたのは、諏訪湖に氷がは
っている頃だった。
あれからまだ何ヶ月もたっていない。



それなのに、これはいったいどう
いうことなのじゃ。
次郎、おまえのことをいちずに思
っているきよのことを、忘れては
ならないぞ。



おまえのことを、あんなに思って
くれるおなごは、ほかにいないか
らのぅ」
明神さまは、心の中で次郎に話し
かけました。



「きよと次郎は、これからどうな
るのだろう。
若い二人が離れて暮らしていると、
いつしか心まで離れてしまうのだ
ろうか」
明神さまは、心の中でそっとつぶ
やきました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。