赤い夕顔の花が咲いた


  赤い夕顔の花が咲いた29


「犬坊。おまえは、この世で一番
かわいがってくれた人に、やりを
むける気か。
落ち着け、落ち着くのだ。そんな
ことをしたら、おまえは一生後悔
するぞ」
どこからか、声が聞こえてきました。



「犬坊」
「犬坊や」
盛永の声も聞こえます。
「兄ちゃん、兄ちゃん」
長五郎のかわいい声も聞こえてき
ました。



「犬坊、何をするの。あなたは、
あんなにかわいがってくれた人を、
やりでさし殺すつもり。
犬坊、そんなことをしてはいけま
せん」



奥がたのお万の声が、どこからか
聞こえたような気がしました。
しかし、犬坊は、その声を無視し
ました。


             つづく



「赤い夕顔の花」は、信州の最南
端にあった「権現城」に伝わって
いる話をヒントにして、みほようこ
が書いたもの。