女神さまとの約束


   女神さまとの約束 8



秋になり、硫黄岳の木々も、赤や黄色に
紅葉しはじめました。
そんなある日。
「白駒、おねがい。私を家につれていって」
「福さん。女神さまとの約束を、忘れた
のですか。女神さまとの約束をやぶると、
大変なことになりますよ」
「大変なことって?」
「女神さまとの約束をやぶると、福さんの
命はありません。私は、女神さまとの約束
をやぶった何人もの人を知っています。
だから、福さんには、女神さまとの約束を、
さいごまでちゃんと守ってほしいのです」




「私は、女神さまとの約束を守り、険しい
岩場に残りました。そして、何千人もの病
人をすくいました。とうちゃんに会いたく
ても、私はじっとがまんしました。ねぇ、
白駒。三日位家に帰っても、大丈夫でしょ?
すぐここにもどるから・・・。
ねぇ、おねがい。私を家につれていって。
どうしても、とうちゃんに会いたいの」
福は、ひっしで白駒にお願いしました。




白駒は、こまってしまいました。
「三日くらいだったら、大丈夫だろう」
 そう思った白駒は、しぶしぶ福を家に
送っていきました。
「福さん、わかっていますね。三日間だ
けですよ。三日たったら、迎えにきます
からね」
そういって、白駒は帰って行きました。




「とうちゃん、ただいま。帰ってきたよ」
「福。女神さまとの約束は、どうしたの
かね。約束を守らないと、大変なことに
なるというではないか。だいじょうぶかい」
「とうちゃん。三日したら、また硫黄岳へ
もどるから、心配しなくても大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、ゆっくり休んでおいき」
長者は、福に会えてうれしそうでした。




何事もなく、二日間が過ぎました。
三日目の朝のことです。
「とんとん、とんとん」
 玄関の戸をたたく音がしました。
 でてみると、白駒でした。
 白駒は、かなしそうな目をして立って
いました。福は、白駒のこんなかなしそ
うな目をみたことがありません。
 福は、誰かにあやつられるように、すぅ
ーと白駒の背にのせられました。




「ひひーん」
白駒は、悲しそうな声で一声なくと、す
ごいいきおいで走りだしました。
野をこえ、山をこえ、里をこえ、白駒は
走っていきます。
そして、山深い森の中の大きな池にたど
りつきました。
青々と水をたたえた美しい池でした。




すると・・・。
どこからか声がきこえてきました。
「福。なぜ私との約束をやぶったのです
か。私は、あなたがさいごまで私との約
束を守ってくれると信じていましたよ。
私の手伝いをしてもらおうと、あなたを
黄金色の花が咲いて場所へつれてきたの
です。
それなのに・・・あなたは・・・。
私は、とても残念です」
その声は、かなしそうな女神さまの声で
した。




「約束を守るということは、本当にむず
かしいことですね。
でも、どんなことがあっても、約束はち
ゃんと守らなくていけないのですよ。
とくに、神様との約束は・・・ね。
ひとつでも赤い木の実を食べたものは、
もう自分の家へもどることはできないの
ですよ」




白駒は、「ひひーん・「ひひーん」と二
声なくと、福をのせたまま、池にどぼーん
ととびこみました。
池に大きな波がたち、福と白駒は、深い
池の底に沈んでいきました。




人々は、この池を「白駒の池」とよぶよう
になりました。


秋になると、白駒の池には、まっかに紅葉
したもみじの葉が、一枚ういているそうです。


      おわり


     18.5.22 推敲