母の短歌1


   水仙の芽見つけて我を呼ぶ

       吾子の声明るく庭にひびきぬ




   百三十枚目のセーター今宵編み上げて

       編器をぬぐい油をさしぬ





   窯出しの楽焼の壷ぴちぴちと

       音たて徐々に色変わりゆく





   受験日のせまれる吾子に夜食をと

       母は年金送りくれたり





   右腕の痛みにたえる吾子と二人

       心せかれつ現像を待つ





   久々の右手の箸に心晴れる

       吾子を囲みて夕餉は賑わし





   祈りこめ小さき石に般若心経の

       一字一字を書き入れていく





   冬枯れて久しき庭のくちなしの

       残れる赤き実風にゆれおり





   永住の住家となりぬ我が庭の

       くちなしの香ふくよかに漂う





   父母座す東の空を日毎夜毎

       偲びて送るこの丘の上の家