かきつばたになった少女

  
   かきつばたになった少女  その2


おばさまの話を聞いたかきつばたは、なんとかし
ておばさまの最後の願いをかなえてあげたいと思
いました。
しかし、女神さまたちは、一人で遠くへでかける
ことを、神様からかたく禁じられていました。
そのため、かきつばたは、誰にも行き先をつげず、
たった一人で霧が峰へ行こうと思ったのです。



霧が峰へつくと、広い草原には、きすげの花が、
一面に咲いていました。
「わー、きれい!!」
かきつばたは、思わず大声をあげました。
「おばさまは、この草原を、大好きな人と一緒に
歩いたのね」
かきつばたは、二人の姿を思いうかべながら、夢
中できすげの花をつみました。


ところが・・・。
はっと気がつくと、あたりは霧で真っ白でした。
いつ霧がでてきたのでしょうか。
かきつばたは、いそいで家に帰ろうと思いました。
しかし、濃い霧のため、一寸先もみえません。とほ
うにくれたかきつばたは、沼のほとりで、霧が晴れ
るのをじっと待ちました。
「おとうさま、ごめんなさい。私はおとうさまとの
約束をやぶり、一人で霧が峰へきました。病気のお
ばさまに、きすげの花をプレゼントしようと思った
のです。おとうさま、どうか霧が早く晴れるように、
私をしっかり守ってくださいね」
かきつばたは、心の中でおとうさんにお願いしました。



どのくらいの時間が過ぎたのでしょうか。
かきつばたには、長い時間が過ぎたように感じました。
霧がさっと晴れ、目の前には、真っ青な空があらわれ
ました。
そして、広い草原のむこうから、こちらにむかって、
少年が走ってくるのがみえました。
少年の姿は、草原を走っている小鹿のように見えました。
少年の姿をみた時、かきつばたはほっとしました。



「こんにちは。すごい霧だったね」
少年が、にこにこしながら近づいてきました。
「こんにちは。すごい霧でびっくりしたわ。もう家に
帰れないのではないかと思ったわ」
かきつばたは、ほっとした顔でいいました。
「みかけない顔だけれど、きみ、どこからきたの?」
「あの山の向こうからよ」
「きみの名前は、なんていうの?」
「かきつばたといいます」
「えっ、かきつばた?」
少年は、驚いたような顔をしました。
「美しい少女だと評判の、あのかきつばたさんなの?
おらは、かきつばたさんに会えるのを、ずっと楽しみ
にしていたんだよ」
少年は、うれしそうにいいました。
「あなたの名前は、なんていうの?」
「おらの名前は、山彦」
「山彦?じゃあ、狩が上手で、足が早いという、山彦
さんなの?」
「そうだよ。おらがその山彦さ」
 山彦は、大きくうなずきました。
山彦のことは、女神さまたちの間でも、うわさになっ
ていました。
霧が峰へ行くと、えものを追って走っている、足の
早い少年がいる。色は黒いけれど、とてもりりしい少
年だ」と。



かきつばたも「いつか山彦に会いたいな」と思ってい
ました。
かきつばたは、人間の少年を、遠くからみたことはあ
りますが、話をするのは今日が初めてでした。
「色は黒いけれど、山彦さんて素敵なかたね。おとも
だちになりたいわ」
かきつばたは、心の中でそっとつぶやきました。
二人とも、今日初めて会ったのに、いつかどこかで会っ
たことがあるような、とてもなつかしい気がしました。


       つづく


「かきつばたになった少女」は、来年
http://www.choeisha.com/ から、
シリーズ「風の神様からのおくりもの4」として発行
される予定です。


    鳥影社のホームページ


http://www.choeisha.com/


すてきな本がたくさん発行されています。



私(みほようこ)も、童話の本を三冊作っていただ
きました。



風の神様からのおくりもの―諏訪の童話

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竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

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ふしぎな鈴 風の神様からのおくりもの (3)

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