かきつばたになった少女


    かきつばたになった少女 その3


「かきつばたさん、霧が峰へ何しにきたの?」
「病気のおばさまに、きすげの花をプレゼントし
ようと思って、花をつみにきたのよ」
「かきつばたさんって、やさしいんだね」
「おばさまは病気なの。それにもう長くは生きら
れないわ。だから、おばさまの最後の願いを聞い
てあげたいと思って、だれにも行き先をつけず、
きすげの花をとりにきたのよ」
「じゃあ、みんなが心配しているかもしれないよ。
早く帰ったほうがいいよ」
「そうね、早く帰って、おばさまにきすげの花を
みてもらうわ」
「おばさまが一日も早く元気になると良いね」
山彦は、そういってはげましてくれました。
二人は心をひかれながらも、その日は少し話をし
ただけで、別れました。



その日の夕方。
かきつばたからきすげの花をもらったおばさまは、
とてもうれしそうでした。
「かきつばた、ありがとう。きすげの花をみること
ができて、うれしいわ。もう何もおもいのこすこと
はない」
「おばさま、今日ね、霧が峰で山彦という少年に会
ったわ」
「えっ、山彦に?」
おばさまは、驚いたような顔をしました。



「おばさまは、山彦のことを知っているの?」
「ええ、よく知っていますよ。だって、山彦は私が
大好きだった人のこどもですもの」
「えっ?」
「少女の頃、私は霧が峰で人間の少年に会ったの。
そして、その少年と何度か会ううちに、おたがいに
好きになったわ。でも・・・今もそうだけれど、人
間の男性と女神は、結婚することは許されていなか
ったの。だから、私はその人と結婚することをあき
らめたわ。でも・・・私はその人のことをどうして
も忘れることができなかった。だから、誰とも結婚
しなかったの。その人は、その後おさななじみの人
と結婚したわ。そして、生まれたのが山彦。だから、
山彦のことは、ずっと気になっていたわ」



「そうだったのね。私何も知らなかった」
「この話は、今まで誰にもしたことがないの。あな
たのおとうさまにもね。この話は、二人だけのひみ
つよ」
「おばさま、私はだれにもいわないわ。もちろんお
とうさまにも・・・」
おばさまは、若い頃の思い出をかきつばたに話し、
すっきりしたようでした。
そして、きすげの花をみたおばさまは、少し元気に
なりました。

      つづく


「かきつばたになった少女」は、来年
http://www.choeisha.com/ から、
シリーズ「風の神様からのおくりもの4」として発行
される予定です。


    鳥影社のホームページ


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すてきな本がたくさん発行されています。



私(みほようこ)も、童話の本を三冊作っていただ
きました。



風の神様からのおくりもの―諏訪の童話

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竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

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ふしぎな鈴 風の神様からのおくりもの (3)

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