童話「白駒の池」


「白駒の池」14


きよちゃんが結婚してしまえば、もう「きよちゃん」
なんてきやすく声をかけることもできないし、こう
して二人で馬を走らせることもできなくなってしま
うのだなと思うと、清太はさみしく思いました。



「おらは、きよちゃんが大好きだ。次郎さんにも、
だれにも、きよちゃんをわたしたくない!!きよち
ゃんは、おらのものだ」
清太は、心の中でさけびました。
「おらが、家柄の良い家に生まれていたら、大好き
なきよちゃんに、今プロポーズするのに。でも、お
らの家は、貧乏な農家だし、第一家柄がちがいすぎる」
清太の心は、ゆれました。
二人は、長い時間、無言のままでゆうすげのつぼみ
をみていました。
清太には、長い時間がすぎたように感じました。



あたりがだんだんうす暗くなってきました。
どこからか、ジャスミンのような良い香りがして
きました。
「きよちゃん、もうすぐゆうすげの花が咲くよ」
清太は、わざと明るい声でいいました。
ゆうすげのつぼみが、ふっくらしてきました。今
にも花が開きそうでした。



一枚目の花びらが、ゆっくり開き始めました。
「清太さん、花びらが開いてきたわ。ゆうすげの
花って、良い香りがするのね」
きよは、ゆうすげの花の香りを楽しんでいます。
続いて、二枚目の花びらが、ゆっくり開きました。
三枚目、四枚目、五枚目と、花びらが、開いてい
きます。
そして、今、最後の六枚目の花びらが開こうとし
ています。
「清太さん、最後の花びらが開くわ」
きよが、うれしそうにいいました。


            つづく