童話「女神さまとの約束」


  童話「女神さまとの約束」9


「とうちゃん、早く手と足を湯の中へ入れてご
らん。体が楽になるから」
長者は、手と足を湯の中へ入れました。
「うーん、気持がいい。なんて気持がいいのだ
ろう」
長者は、うっとりした顔でいいました。



福は、長者の体を、湯でひたした花びらでやさ
しくさすってやりました。
すると、どす黒かった長者の顔が、うっすらと
ピンク色になりました。
「とうちゃん。きっと元気になれるよ」
「そうだな。元気になれるかもしれないね」
長者も、うれしそうでした。
長者は、一日ごとに元気になりました。
そして、十日後には、元通りの元気な体になり
ました。



「さあ、福。元気になったから、家へもどろう」
「とうちゃん。私は、硫黄岳のこの岩場に残るわ」
「なぜだい?」
「私、八ヶ岳の女神さまと約束したの。この岩場
にとどまって、とうちゃんのように病気で苦しん
でいる人を助けてあげるって」
「そうか・・・。福は、女神さまとそんな約束を
したのか。約束はきちんと守らなくてはいけない
けれど、福がいないと、さみしいね」
長者は、さみしそうでした。



長者は白駒の背にのり、一人で家へもどっていき
ました。
福は、女神さまとの約束を守り、硫黄岳の岩場に
一人残りました。


                      つづく