童話「白駒の池」


   「白駒の池」1


「おじょうさま」
「なぁに?清太さん」
「これから、座禅草の花をみにいこう」
馬の世話をしている清太が、長者の一人娘・きよ
に、声をかけました。



「これから?」
「そう、これから。昨日、長者のおともで、高原を
通ったらね、座禅草の花が咲いていたんだ。おじょ
うさまに、座禅草の花をみせてあげようと思って」
「座禅草の花?」
「おじょうさまは、座禅草の花をみたことがないの?」
「ないわ。どんな花?」
「その花はね、おもしろい形をしているんだよ」
「おもしろい形って?」
「み・れ・ば・わ・か・る・よ。おじょうさま」
 清太は、おどけていいました。



「おらの家の近くにも、座禅草の花が咲いている。
その場所はね、諏訪の神様・明神さまがすんでいる
守屋山のふもとなんだ。春になるとね、林の湿地に、
座禅草がかわいい芽をだすんだ。いつか、おじょう
さまにも、おらの村の座禅草をみてもらいたいな」
いつも無口な清太が、今日は一人でしゃべっています。



「清太さん、おねがい。二人だけの時は、おじょう
さまなんてよばないで。きよって、よんで」
「おらは、長者の家の手伝いをしている使用人だ。
おじょうさまのことを、きよなんてよびすてにはで
きない」
「清太さん。私は、佐久の里の長者の娘。みんなか
ら、長者のおじょうさまっていわれているわ。でも、
私は、おじょうさまということばが、大きらいなの。
とうちゃんはとうちゃん、私は私よ」


                        つづく