「ふしぎな鈴」じいちゃんとばあちゃんの章


かなはよちよち歩きの頃から、遠くに住んでいる
おじいさんの家へ、遊びに行きました。
「かなや、かなや」
おじいさんとおばあさんは、初まごのかなをかわ
いがってくれます。



「じいちゃん、まってー」
「ばあちゃーん、かなもつれてってぇ」      
かなは二人のあとをおい、たんぼや畑へついて行
きます。二人が働いている間、かなはれんげ畑
で遊びます。
れんげの花をつんだり、れんげの花の上でねころ
がって、空の雲をながめました。



かなは丘の上にたっているおじいさんの家が大好
きでした。
おじいさんの家では、蚕をたくさんかっています。
蚕室へいくと、蚕のにおいがぷーんとします。
かなは蚕が桑の葉を食べる音を聞いて育ちました。



夏のある朝。
かなとおじいさんは、暗いうちにおきて、うらの
りんご畑へ、せみの羽化をみに行きました。
りんごの木には、土の中からはいだしたばかりの
せみの幼虫が、たくさんとまっています。
「わぁー。たくさんいる。じいちゃん、これが蝉
の幼虫なの?」
「そうだよ。よくみていてごらん。もうすぐせみ
が生まれるから」
「じいちゃん、このせみ何ていうの?」
「あぶらぜみだよ」
おじいさんはあぶらぜみのことをいろいろ教えて
くれました。



みていると、背中がぱかっとわれて、中からせみ
が元気よくとびだしてきました。
生まれたばかりのせみは、うすい灰色がかった空
色をしています。小さく縮れていた羽が、時間が
たつにつれ、だんだんにのびてきます。
体の色もうすい茶色に変わってきました。
そして、最後には、こい茶色になりました。



二人は、羽が完全にのびきるまで、じっとみてい
ました。
「じいちゃん…」
かなは胸がつまり、何もいえませんでした。
「かなもこの蝉のように、おかあさんのおなかから、
生まれてきたのだよ」
おじいさんがぽつりといいました。


       つづく



ふしぎな鈴 風の神様からのおくりもの (3)

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