童話「女神さまとの約束」


   童話「女神さまとの約束」11


食べ物は、白駒が運んでくれます。
食べ物といっても、小さな赤い木の実だけ。小指
の頭くらいの大きさの、つややかな赤い実でした。
なんともいえない良い香りがします。
その木の実を口にすると、なぜかすぐにおなかが
いっぱいになります。たったひとつ木の実を食べ
ただけなのに、おなかの中でおいしさがぱーとひ
ろがるような感じでした。



「白駒。これ、何の木の実?」
「女神さまも、毎日この木の実を食べていますよ。
でも、名前はしりません」
白駒がいいました。


 
それから、十年がすぎました。
硫黄岳での生活は、夏は涼しく快適でした。
夏になると、硫黄岳の砂地には、駒草やウルップ草
などの高山植物が美しく咲きます。
福は、花が咲くのを何よりも楽しみにしていました。
夏になると、福は白駒の背にのり、硫黄岳の一帯を
散歩しました。



しかし、冬は寒さがきびしく、雪が何メートルも降
ります。そして、その雪は、六月頃までとけません。
長い間、毎日毎日白い雪をみてくらさなくてはなり
ません。福は、険しい岩場の生活に、だんだんあき
てきました。
そして、福は人をすくうことにも、むなしさを感じ
るようになっていました。


        つづく