童話「竜の姿をみた少女」


   童話「竜の姿をみた少女」1


たてしな山のふもとに、しらかば湖という美し
い湖があります。

 
「おっかあ、おっかあー」 
「?」
かなは、あたりをみまわしました。
しかし、しらかば湖のまわりには、かなとおと
うさん以外、誰もいませんでした。
「とうちゃん。今、何か声が聞こえなかった?」
「いやー、何も。何か聞こえたかい?」



「『おっかあ、おっかあー』という声が、どこか
らか聞こえてきたの」 
「そうか。とうちゃんも、この湖でつりをしてい
た時、『おっかあ、おっかあー。どこにいるー』
という声を聞いたことがある」
「とうちゃんも聞いたのね」
「ああ、とうちゃんも聞いた。とうちゃんだけで
なく、村人の中には『おっかあ、おっかあー。ど
こにいるー。いたら返事をしてくりょー』という
声を、聞いた人もいるようだよ」



「誰の声なの?」
「妻をさがして歩く三郎の声だといわれている」
「三郎って、誰?」
「大昔、たてしな山のふもとに住んでいたという
三郎だよ。その三郎はね、竜になってしまったん
だよ」



「とうちゃん。この湖に、竜が住んでいるって、
ほんとう?」
「さあなぁ。村には、竜が住んでいたといういい
つたえがあるが、竜の姿をみた人は誰もいないか
らね。でも、この湖には、もしかしたら竜が住ん
でいるかもしれないよ」
おとうさんは、夢みるようにいいました。


つづく



童話「竜の姿をみた少女」は、みほようこの二冊
目の童話集・「竜神になった三郎」の続編として
書いたものです。




竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

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