童話「竜の姿をみた少女」


  童話「竜の姿をみた少女」5


「誰かしら?」
あたりをみまわしましたが、誰もいません。
じっと耳をすませて聞いていると、どこからか
こんな話し声が聞こえてきました。
「しらかばさん。・・・三郎さまは・・・今年
も・・・この湖へ・・・みえるかしら」
「ああ、みえるとも。三郎さまは・・・この村
が・・・大好きだからね」



「三郎さまは、いつ・・・この湖へみえるのか
しら」
「湖の氷も・・・とけ始めたし、ぼつぼつ・・・
みえるのではないかな」
とぎれとぎれでしたが、こんな話し声が聞こえて
きました。
しらかばといぬのふぐりの花が、話をしていたの
でしょうか。
「三郎さまって、誰のことかしら。竜になった三
郎のことかしら」
かなは、そう思いました。



それから、一週間がすぎました。
かなは、また湖へ行き、湖をながめていました。
「少女よ。おまえは、ほんとうにこの湖が好きな
んだね」
ふりむくと、白いひげのおじいさんが立っていま
した。みたことのないおじいさんでした。
おじいさんは白い着物をきて、長い杖をついてい
ます。



「わしはのぅ、昔この村に住んでいたものじゃ。
ここは、のどかでいい所じゃのぅ。わしは兄たち
といっしょに、春はわらびやたらの芽、秋は栗や
きのこをとったものじゃ。あの頃は、ほんとうに
楽しかったのぅ」
おじいさんは昔をなつかしむように、こどものこ
ろの話をしてくれました。
「おじいさん。しらかば湖に竜が住んでいるとい
ういいつたえを知っている?」


つづく


童話「竜の姿をみた少女」は、みほようこの二冊
目の童話集・「竜神になった三郎」の続編として
書いたものです。




竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)

竜神になった三郎 風の神様からのおくりもの (2)