開善寺の早梅の精


   開善寺の早梅の精13


「文次さん。昨夜は、ほんとに楽
しかったわ。ありがとう。
来年、梅が咲くころ、ここで会い
ましょうね。きっとよ」
どこからか、やさしい声が聞こえ
てきました。



「あの美しい女の人は、早梅の精
だったのかもしれない」 
文次は、そう思いました。



そうです。
文次の前にあらわれた女の人は、
月香寮の前に咲いている早梅の精
だったのです。



梅の花匂ふ袂のいかなれば

 夕暮れごとに春雨の降る



文次は、「あの人の香りが残る袖
は、毎夜私の涙でぬれている」と
いう意味の歌をよみました。
文次は、梅香のことがわすれられ
なかったのでしょうね。



この歌をよんだ翌日、文次は戦場
でなくなりました。
「この世の最後に、梅香さんと歌
あわせができて、わしは幸せだった。
梅香さん、ありがとう」 
そういって、文次はあちらの国へ
旅立っていきました。


          おわり



「開善寺の早梅の精」は、信州の
伊那谷にある「開善寺」に伝わっ
ている「早梅の精」の話をヒント
にして、みほようこが書いたもの。