火とぼし山15
「私、一分でも早く、次郎さんに
会いたかったから」
「きよちゃん。湖の氷は、まだ薄
い。氷が割れたら、どうするの。
こんな寒い夜、湖に落ちたら死ん
でしまうよ。たのむから、危険な
ことはしないでね」
次郎は、きよのことが心配でした。
「次郎さん。はい、お酒」
「お酒?」
「寒いから、次郎さんに飲んでも
らおうと思って、持ってきたの」
きよは、小さなとっくりを、次郎
にわたしました。
「うまいっ」
次郎は、うまそうに酒を飲みました。
「きよちゃん。この酒、温かい。
どうしたの」
「次郎さんのことを思いながら、
歩いてきたの。ただ、それだけよ」
きよちゃんは、おらのことを、こ
んなにも思っていてくれる。
次郎は、幸せでした。
つづく
「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。
「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。