火とぼし山

[童話]火とぼし山


火とぼし山 89


新しい出発 18


「次郎さんて、誰?」
「おまえが、この世で一番好きな人じゃ」
きよは、大好きだった次郎のこともおぼえて
いないようでした。
「私が、淵でおぼれたのですか」
「そうじゃ。大きなうずにまきこまれ、おぼ
れてしまったのじゃ。手長と足長が、うずの
中からおまえを助けてくれた。おまえは、こ
のやしきで、三日間眠り続けたのじゃ」


「私は、うずにまきこまれたことも、助けて
いただいたことも、何もおぼえていません」
「そうか。おぼえていないのか」
「ええ、何もおぼえていません」
きよは強いショックを受け、すべての記憶が
なくなっているようでした。


         つづく