火とぼし山


   火とぼし山20


きよは、一分でも早く、次郎の所
へ行ける方法はないものかと考え
ました。
「湖を泳いで行ったらどうだろう」
きよは、湖の中へ手を入れてみま
した。
氷がとけ始めた湖は、驚くほど冷
たく、泳いでいくことは無理でした。



きよは、次郎のことを考えながら、
湖のまわりを足早に歩いていきま
した。しかし、歩いても、歩いて
も、なかなか次郎の所へたどりつ
けません。
何時間もかけ、やっと次郎の所へ
つきました。



「次郎さん。今夜は、湖のまわり
を歩いてきたの。
だから、遅くなってしまったわ。
次郎さん。会いたかった」
「きよちゃん。遠い所をご苦労さ
ま。待っていたよ」
次郎は、笑顔できよを迎えてくれ
ました。



「私は、次郎さんの笑顔をみるだ
けで幸せ」
きよは、心の中でそっとつぶやき
ました。


              つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。