火とぼし山


   火とぼし山59


きよは、暗闇の中を、向こう岸に
むかって泳いでいきました。
しばらくすると、西山にぽっと小
さな火がともりました。
「あっ、次郎さんだ。今日も火を
たいてくれたのね。ありがとう」
きよは、西山にともった小さな火
をみて、ほっとしました。



しかし、何か変でした。
今日の火は、少し南によっている
ような気がする。気のせいかしら。
次郎さんがともしてくれた火だも
の、まちがいない。
あの火を目印に、泳いでいこう。



きよは、次郎がともしてくれた火
をめがけて泳いでいきました。
五分後。
「やっぱり変だ。泳ぐ方向を変え
なくては」
そう思った時、目の前に大きなう
ずがあらわれました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。