火とぼし山75
「明神さまのやしき?
私は、なぜここにいるの」
「きよ。おまえは、大好きな次郎
に会いに行く途中、小坂観音沖の
深い淵で、おぼれてしまったのじゃ」
「次郎さんて、誰」
「おまえが、この世で一番好きな
人じゃ」
きよは、大好きだった次郎のこと
もおぼえていないようでした。
「私が、淵でおぼれたのですか」
「そうじゃ。大きなうずにまきこ
まれ、おぼれてしまったのじゃ。
手長と足長が、うずの中からおま
えを助けてくれた。
おまえは、このやしきで、三日間
眠り続けたのじゃ」
つづく
「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。
「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。