火とぼし山


   火とぼし山76


「私は、うずにまきこまれたこと
も、助けていただいたことも、何
もおぼえていません」
「そうか。おぼえていないのか」
「ええ、何もおぼえていません」



きよは強いショックを受け、すべ
ての記憶がなくなっているようで
した。



記憶がないまま、生まれ育った諏
訪で暮らすのもつらかろう。
きよが生きていることを知ったら、
次郎がまた何かするかもしれないし。



きよの両親も、記憶のない娘と暮
らすのはつらいだろう。
いろいろ考えた末、明神さまは、
静岡の知り合いにきよを預けよう
と思いました。


             つづく



「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。



「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。