火とぼし山77
その夜。
「手長、足長。明神じゃ。用事が
あるので、すぐきてほしい」
「はい、わかりました」
手長と足長は、いそいで明神さま
のやしきへ行きました。
「夜遅くにもうしわけない。
これから、きよを静岡の知り合い
までつれていってほしい」
「えっ、きよを、静岡へつれてい
くのですか」
手長が驚いて聞きました。
「そうじゃ。きよは、自分の名前
も、大好きだった次郎のことも、
何もおぼえていない。
記憶がなくなってしまったきよを、
ここへおいておくわけにもいくま
い。きよが生きていることを知っ
たら、次郎が何をするかわからな
いしな」
明神さまがいいました。
つづく
「おみわたり」で有名な信州の諏訪
湖には、「火とぼし山」という悲し
い伝説があります。
「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。