火とぼし山

[童話]火とぼし山


火とぼし山 63


湖を泳ぐ娘 9


「きよちゃんは、いつもそんなふうに祈って
いるの」
「祈っているわ。次郎さんのことも、元気で
暮らせますようにと、毎日祈っている」
きよのことばを聞き、次郎は思いました。
おらは、暗い夜道を、何時間もかけて訪ねて
くるきよちゃんのことを、一度でも祈ったこ
とがあっただろうかと。


「次郎さん。私ね、湖を泳いでいると、魚に
なっちゃったのかなって、思う時があるの」
「魚になる?」
「そんな時は、すーいすーいと、早く泳げる
の。誰かが、たぶん神様でしょうね。私を守
っていてくれるのだなって思うわ」
「きよちゃんが、魚に? そんなばかな」
そういって、次郎はだまってしまいました。


         つづく