火とぼし山


   新しい出発 26


「夜遅くにもうしわけない。こ
れから、きよを静岡の知り合
いまでつれていってほしい」
「えっ、きよを、静岡へつれて
いくのですか」
手長が驚いて聞きました。



「そうじゃ。きよは、自分の名
前も、大好きだった次郎のこと
も、何もおぼえていない。記憶
がなくなってしまったきよを、こ
こへおいておくわけにもいくま
い。きよが生きていることを知
ったら、次郎が何をするかわか
らないしな」
明神さまがいいました。


       つづく