童話

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 11 「私、文次さんとゆっくりお話がしたいの です」 「梅香さん。ほんとにおじゃましていいの かな」 文次が、聞きました。 「どうぞ、えんりょなく。おいしいお酒を ごちそうしますよ」 誘われるままに、文次は…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 10 「わしは、戦が大きらいじゃ。罪もない人を 傷つけたり、殺したりするのをみていると、 ほんとにむなしくなる。一日も早く、戦のな い世の中になってほしいものじゃ」 「そうですね。平和な世の中になるとい…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 9 「いやいや、おはずかしい」 文次は、女の人にほめられ、顔が赤くなり した。 「ところで、文次さん。なぜここへみえた のですか」 「わしらは、今、甲斐の武田と戦っている。 だが、開善寺の早梅がみたくなっ…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 8 女の人は、「昔の美しかった花のおもかげま で、この梅には残っているようです」と、よ んだのでしょうか。 「すてきな歌ですね。ところで、あなたの名 前は?」 「梅香といいます」 「梅香さんですか。あなた…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 7 「うわさ通り、美しい花じゃのぅ。香りも すばらしい」 文次は、女の人に話しかけました。 すると、女の人は、にっこりほほえみました。 文次は、即興で歌をよみました。 ひびきゆく鐘の声さへ匂ふらん 梅咲く…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 6 文次は、梅の花にみとれていました。 ふと気がつくと、目の前に美しい女の人が立 っていました。 女の人は、いつここへきたのでしょうか。 年のころは、二十才。 いや、もっと若いかもしれません。 清楚な、美…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 5 そして、胸をはずませ、開善寺へいそぎま した。 寺へ着くと、梅の花が咲いていました。 雪のように白い、美しい花でした。 あたり一面に、梅の花のいい香りがただよ っています。 なんともいえない清らかな香…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 4 文次がよむ歌は、戦に疲れた人々の心を、ほ っとなごませました。 情け深い文次は、みんなから「文次さ、文次 さ」としたわれています。 寒さが厳しい暮れのある日。 「開善寺の梅が、咲いたそうだ。後醍醐天…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 3 開善寺の早梅には、こんないいつたえがあり ます。 今からおよそ四百六十年前。 甲斐の武田が、伊那谷にせめてきました。 そして、信濃の村上と戦になりました。 村上頼平の家臣に、和歌をよむ風流な男がお り…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 2 信州は、冬の寒さが厳しく、春の訪れが遅い 地でした。 そんな中、開善寺の早梅は、冬至前後に花が 咲きます。 早く咲く梅として有名でした。 小笠原貞宗は、時の帝・後醍醐天皇に、早梅 をおくりました。 天…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 1 信州の伊那谷に、「開善寺」という禅寺があり ます。 梅・牡丹・藤など、美しい花が咲く寺として有 名でした。 寺には、室町初期に建立された山門や、鎌倉式 のみごとな庭園もあります。 開善寺は、建武二年(…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 23 「明神よ、いつまで奥さんとはなれてくらすつ もりじゃ。一日も早く奥さんと仲なおりしたまえ」 どこからか声が聞こえてきました。 「そうじゃのぅ。一日も早く妻に戻ってきても らわなくてはのぅ」 明神さまは…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 22 そういって、奥さんは下諏訪のやしきで暮ら すことになったのです。 もともと、人がうらやむほど仲のいい夫婦。 明神さまは奥さんと離れているのがつらく、 夜になると、毎晩奥さんに会いにいきました。 バリバ…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 21 「まゆ玉のことはともかくとして、私は寒いの が大嫌い。今までずっとがまんしていたけれど、 ここは日が沈むのも早いし、とても寒い。こん な寒い所には、これ以上住めないわ。私は、湖 の向こう側の日がよくあ…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 20 「そんな・・・。じゃあ、私との約束は、どう なるの。私、長い間、黄金色のまゆ玉をかして もらえると楽しみにして待っていたのよ」 心のやさしい奥さんでしたが、さんざん楽しみ にして待っていたまゆ玉です。…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 19 ある日。 明神さまは、おそるおそる奥さんに話しました。 「なあ、妻よ。約束しておいて悪いけれど、黄 金色のまゆ玉を、わしの友だちにしばらくかし てあげてくれないか」と。 すると・・・。 「あなたは、今度…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 18 友だちは、何度も何度も頭をさげ、明神さまに お願いしました。 明神さまは困ってしまいました。 「じゃあ、こどもの病気がなおったら、すぐま ゆ玉を返しておくれよ」 「もちろん。こどもが元気になったら、す…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 17 「明神よ、わしのこどもを助けてほしい。おま えが持っている黄金色のまゆ玉を手にすると、 どんな病気でもなおるというではないか。そろ そろ次のまゆ玉が授かるころだね。次のまゆ玉 が授かったら、そのまゆ玉…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 16 「でも・・・あのかたは、もう一つ黄金色の まゆ玉がほしくなって、私にまゆ玉をかして くれないのではないかしら」 奥さんは、なぜかそう思いました。 女のかんです。 そんなある日。 遠くの国から、ひさしぶり…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 15 それから三十年がすぎました。 「ねえ、あなた。ぼつぼつ二つ目のまゆ玉が 授かるころね。今度黄金色のまゆ玉を授かっ たら、そのまゆ玉を私にかしてくださらない?」 ある日、奥さんがいいました。 「ああ、い…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 14 明神さまは、黄金色のまゆ玉を、とても大 切にしています。 愛する奥さんにも、手をふれさせないほど、 黄金色のまゆ玉を大切にしていたのです。 明神さまは、黄金色のまゆ玉を手にするた びに、「諏訪地方の人…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 13 どうじゃ、すごいまゆ玉じゃろ。これから、 三十年に一度、一つずつ黄金色のまゆ玉を 授けよう。次のまゆ玉が授かるまで、その まゆ玉を大切にするのじゃよ。そして、こ の地方に養蚕をひろめてほしい。蚕は、天…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 12 「おや? これは、黄金色のまゆ玉。美しい まゆ玉じゃのぅ。こんな美しいまゆ玉は、み たことがない。でも、なぜこんな所に黄金色 のまゆ玉があるのじゃろ」 明神さまは、ふしぎに思いました。 明神さまがまゆ玉…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 11 明神さまと奥さんは、守屋山のふもとで蚕をか っていました。 二人は、諏訪地方に養蚕をひろめようと、伊勢 の方から寒さに強い桑の木や、蚕の卵をとりよ せました。 そして、技術者をよび、養蚕の技術を学んで…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 10 明神さまは奥さんがでていってしまったことを、 みんなにないしょにしていました。 そのため、みんなが寝静まったころ、そっと奥 さんに会いに行っていたのです。 では、二人のけんかの原因は、何だったのでし …

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 9 「夫婦ですもの、けんかくらいするわよ。だか ら、明神さまは奥さんのことが心配で、真夜中 にそっと様子をみにいくのではないかしら」 「そうかもしれないね」 村の人たちは、そういって奥さんのことを心配 しま…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 8 そんなある日。 「明神さま。このごろ、奥さんの顔をみかけ ないけれど、奥さんは元気かのぅ」 「ああ。元気じゃよ。妻は用事があって、里 へ帰ったのじゃ」 「それにしても、長いのぅ。奥さん、どうか したのかね…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 7 「今夜こそ、行く先をつきとめられると思 ったのに、残念だったな」 「それにしても、あぶないところだった。 こんな寒い夜湖に落ちたら、しんぞうまひ で死んでしまうぞ」 青年たちは、とぼとぼと家に帰りました…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 6 青年たちは、何日も明神さまのあとをつけま した。 しかし、いつも明神さまの姿を見失ってしま いました。 二月初めのある夜。 青年たちは、今夜も明神さまの後をつけてい ました。 湖の真ん中あたりまできた時、…

黄金色のまゆ玉

[童話]黄金色のまゆ玉 黄金色のまゆ玉 5 「明神さまって、足が速いんだね。まるで、 氷の上をすべるように歩いていったよ」 「それにしても、明神さまはどこへ行ったの だろう」 「好きな人の所へ行ったのかもしれないよ」 「ばかをいえ。あんな美しい奥…